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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(23)
ジャイアントに「チビ」と呼ばれたレイターがフェニックス号を停船させた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版① ② ③
ジャイアントが続けた。
「やる気になったか、裏将軍。昔みたいに『縛りナイフ』はどうだ」
「受けてやるぜ」
「俺が勝てば百億リルだ」
「じゃあ、俺が勝ったら、あんたらはギャラクシー連合会の傘下に入れ」
「ああ、わかった。十分後にそこの小惑星まで一人で来い」
一体、何を始める気だ。
「お袋さん、アレグロ呼んでくれ」
レイターが通信を入れた。モニターに映った紫の前髪の人物に見覚えがある。暴走族界隈で最大の勢力を誇るギャラクシー連合会の総長。アレグロ・ハサムだ。大富豪ハサム一族の御曹司。
確か復活した『裏将軍』は、このギャラクシー連合会のトップに収まったということだった。
「おお、レイターか。お前大丈夫か? お前に百億リルが懸かってるって大変なことになってるぞ」
「そんなわけでジャイアントとこれから『縛りナイフ』やることになったんだ。あいつ、負けたら連合会の傘下に入るっつってるから。旗、よろしくな」
「お前、目、どうかしたのか?」
「あん?」
「焦点が合ってないぞ」
「相変わらず鋭いねぇ。あんたに頼みがある。雑魚どもを押さえといて欲しいんだ。この目じゃいちいち相手してらんねぇ」
「わかった。とにかくお前はジャイアントを倒せ。あとはこちらで押さえ込む」
「頼んだぜ、総長」
レイターが宇宙服に着替え始めた。
「お、おい。どうする気だ?」
僕はあわてて聞いた。
レイターが驚いた顔をした。
「あんた、話、聞いてなかったのか?」
ジムが嬉しそうに言った。
「刑事さん、ジャイアントと決闘するに決まってるじゃないッスか」
「決闘? だ、だめだ。認めるわけにはいかない。僕は警察官なんだ」
レイターが軽い口調で言う。
「大丈夫さ、ジャイアントは死ぬ前に降参するから警察の世話にはならねぇよ」
レイターは自分が勝つことしか考えていない。だが、
「君は、目が見えないんだぞ」
「雑魚を黙らせるためにゃ、一発カタを付けといたほうがいいのさ」
「だめだ!」
彼は体調もよくない。決闘なんてさせられない。
レイターは引き留める僕を怖い顔でにらんだ。と、僕は首筋に熱を感じた。レーザーナイフを突きつけられていた。
「言ったはずだ、警察の指図は受けねぇと」
「……」
言葉が出てこない。ナイフの前に僕はひるんでしまった。
その隙に彼はジェットパックを背負い宇宙空間へと出ていった。情けない。これでも僕は警察官か。自己嫌悪に陥る。
*
大気の無い小惑星の平原に二人は立っていた。
フェニックス号はその近くに停泊した。
「ほう、チビが大きくなったじゃねぇか」
ジャイアントは『巨人』の呼び名どおり長身のレイターよりさらに一回り体格がいい。坊主頭が見下ろす様子はまさに大入道だ。
「あんたは相変わらず、デカイだけがとりえって感じだな」
お互いの左手首をロープで縛り付けている。ロープで逃げられないようにして小型のレーザーナイフで戦う。刃渡りは十五センチ程度。
それが『縛りナイフ』だった。 (24)へ続く
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