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銀河フェニックス物語<少年編>第八話(1) ムーサの微笑み

マフィアから逃げ、アレクサンドリア号に密航したレイターはそのままアルバイトとして乗艦することを許されていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第七話「初恋は夢とともに」<少年編>「ムーサの微笑み」まとめ読み版 
<少年編>マガジン

 戦艦アレクサンドリア号、通称アレックのふね
 銀河連邦軍のどの艦隊にも所属しないこのふねは、要請があれば前線のどこへでも出かけていく。いわゆる遊軍。お呼びがかからない時には、ゆるゆると領空内をパトロールしていた。


「ねえ、ヌイ。ギター弾いてくれないかなぁ」
 食堂でアルバイトをしているレイターが僕に初めて話しかけてきた時のことは、よく覚えている。

12正面笑い

 レイターは十二歳と聞いている。
 自分の十二歳の頃を思い出してみるが、こんなに幼かっただろうか。クリクリする目で頼んできた。

 どうして僕がギターを弾くことを知っているんだろう。

 まあ、アレックのふねに乗っているみんなが知っていることだから、誰かから聞いたのかも知れないけれど。
「リクエストあるかい?」

ヌイ後ろ目微笑

「夏の日の雲」
「夏の日の雲?」
 不思議に思った。『夏の日の雲』は僕のオリジナルの新曲だ。

「出航パーティの時、裏で隠れて聞いてたんだ」
 ああ、そういえば地球を出航して間もないころ、一度だけ食堂で披露した。
 レイターが密航者というのは、このふねに乗る者には公然の秘密だ。ネズミが隠れて聞いていたのか。

「すっごくよかった。”ほら、雨が上がる。虹ができる。僕の前に”ってサビが特に好きだよ」
 驚いた。

 レイターが口ずさんだ歌は音程も歌詞も正確だった。声変わりしていないから、元の楽譜より一オクターブ高い。
 出航パーティの時、サビのパートは繰り返したけれど、僕の歌を覚えている人がいるなんて思いもしなかった。僕はうれしくなった。
「僕の部屋に来るかい?」

 通信士の僕はアレック・リーバ艦長に引っ張られ、今回このアレクサンドリア号に乗ることになった。

ジャックと若アレック

 ジャック・トライムス元帥の筆頭秘書官を務めていたアレック大佐は、連邦軍の有名人だ。
 自分で人材を集めて遊軍を指揮し、優秀な戦績を治めている。軍への貢献度が高いため、人事の裁量権が非公式に大きく認められているらしい。
 アレックのふねに乗艦できるのは名誉なことだ。

 僕の部屋は、白兵戦部隊のバルダン軍曹と同室だ。
 偶然だがバルダンと僕は同じハイスクール出身の同級生だ。
 あの頃、僕は軽音部、バルダンは格闘技部だった。ハイスクールを卒業して十年が経つ。

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 今回、バルダンとたまたま一緒にこの船に乗ることになり、階級が同じ軍曹の僕らは、同じ部屋で暮らすことになった。
 彼は戦闘員、僕は通信兵。性格も趣味もまるで違うけれど、部屋の居心地は悪くない。

 彼は僕がギターを弾くのを嫌がらないでくれる。代わりに僕は彼が部屋の中で格闘技の練習をしていても気にしない。

 ドアを開けた瞬間、バルダンの蹴りが目に入った。

n41トレス戦闘服2ー

「おっと、あぶねー」

 すれすれのところでバルダンがよける。
 こんなことは日常茶飯事だ。

「お、レイターじゃないか。訓練の続きやるか? 一に練習、二に訓練だ」

 レイターがバルダンから格闘技を教わっていることは有名だ
 なんでも将軍家の坊ちゃんを倒したいらしい。

 けど、まあ、無理だと思う。坊ちゃんは何事にも優秀だ。格闘訓練でバルダンにも勝つ時がある。

少年正面@2

「きょうは、ヌイのギターを聴きに来たんだ」
「へー、お前音楽好きなのか」
「うん」
 素直に頷くレイターの笑顔は気持ちよかった。

 ギターを取り出すと、二段ベッドの下の段に腰掛けてチューニングをする。
「そうやって合わせるのかぁ」
 レイターは興味津々で僕の手元を見つめている。

 そして、僕は『夏の日の雲』を歌った。

夏の日の雲

 バルダンとレイターは床に腰かけて聞いていた。
 リズムに合わせて身体を揺らし、僕の歌とシンクロしている。
 この一体感に触れる瞬間が、僕は大好きだ。

 歌い終わると二人は拍手をしてくれた。

「ねえねぇ、どうしてヌイはプロにならないの? こんなに上手いのに」
 子供ってほんと残酷だな。

「世の中はそんなに甘くないってことさ」
「ヌイはカッコイイし、絶対、売れると思うのになぁ」
 バルダンが気を使うようにチラリと僕を見た。    (2)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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