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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  第三話 大切なことの順番(最終回)

ロッキーの話を聞いたティリーは情けなくなり涙が止まらなかった。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>第二話「麻薬王の摘発」まとめ読み版 

 体が揺れている。

 ほんわりと温かさが染みてきて、気持ちいい。
 頭の奥に、わたしの大好きな声が響いている。

 その声が怒っていた。
「ったく、酔いつぶれるまで飲ませて、どうする気だったんだよ」
 わたしの大好きなレイターの声だ。

「どうかする気なら、お前を呼んだりしないよ」
 ロッキーさんの困ったような声が、隣から聞こえた。

 わたしは、レイターの背中におぶられていた。
 ひんやりとした夜風で目が覚めてきた。

 どうやらわたしは、あのまま店で眠ってしまったらしい。
 どうしたものかと悩んだロッキーさんが、レイターを呼び出したということのようだ。
「ふん。俺のカネだと思って散々飲み食いしやがって、何でボトルなんかいれてんだよ」

「でも、お前が悪いんだぞ」
 ロッキーさんがレイターに詰め寄った。
 そうだそうだ。レイターが悪いんだ。

「俺が? 何で?」

「船に変なパーツ取り付けてたんだろ」
「変じゃねぇよ」
「それは、今日付けなきゃダメだったのか?」
「あん? そうだよ。明日、ティリーさんが仕事で船使うから、ガレガレの船貸してくれって言われてんだ」

 思い出した。
 明日、部長の使いで出かけるのに、操縦がしやすいガレガレさんの小型船を貸して欲しい、って頼んでいたことを。

「客乗せるっつってたから、大急ぎで振動を抑えるパーツ買ったんだ。ティリーさんの操縦は、乗ってる人が酔っちまうからな。あそこまで下手な操縦を補正できるパーツってないんだぜ」
「それ、ティリーさんに言ったのか?」

「言ったさ」

 力説していたレイターを思い出す。
 振動を抑えることに優れていて、船酔いにもならないって、確かに言っていた。
 でも、わたしはレイターの操縦には必要ない無駄なものだ、と思ったから聞き流していた。

 だって、レイターはわたしの為のパーツだなんて、一言も言わなかった。
 今、気がついた。値段が高いパーツで、わたしが「お金の無駄だ」なんて言ったからだ。
 だからわたしの為のものだ、って言わなかったんだ。
 わたしに気を使って……

「ほんとは試し乗りして欲しかったんだよな」
 つぶやくレイターの声を聞いたら、夕方、自宅のモニターに映ったレイターを思い出した。
『パーツの取り付けにつきあって欲しいんだけどな』って寂しそうな顔をしたレイターを。

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 レイターだって、わたしと一緒にいたかったんだ。それに気がつかなかったわたしがバカだった。
「ばかっ!」
 わたしはレイターの背中を叩いた。

「およ。ティリーさん起きたのか?」
「ばかばかばかばか」
 ちゃんと伝えないレイターが悪いのよ。

「あん?」
「船とわたしの、どっちが大事なの?」

「船に決まってるだろが」
 即答だ。むかつく。
 どうしてわたしだ、って言ってくれないのよ。

「ったく、こんなぐだぐだになるまで飲みやがって!」
 腹を立てたレイターの声。
「折角のおしゃれが、台無しじゃねぇかよ」

 あ、……レイターの一言で気持ちがはずんだ。素直にうれしい。
 やっぱり、レイターは気づいてくれたんだ。

「俺以外の男との食事に、気合いをいれやがって」
 もしかして妬いてる? 本気で怒ってる?

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「あんたこそ、俺とロッキーのどっちが大事なんだ?」
 あなたのためにおしゃれをしたのよ。どれだけ時間がかかったと思ってるのよ。
 バカなことを聞かないで。

「ロッキーさんに決まってるでしょ!」

 隣でロッキーさんが頭を抱えた。
「あちゃあ。お前たちって、どうしてそうなんだよ」

 どうしてこうなんだろう。
 また、涙が出てきた。愛しいわたしの彼氏。
 あなたより大切なものはどこにもない。優先リストの一番上だ。

「く、苦じい。はなせっ。俺を殺す気か! この酔っぱらい!」
「離さないから、覚悟しなさいっ!」
 わたしは思いっきり力を込めて、レイターの首を抱きしめた。
                     (おしまい)
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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