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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第二話(4) 麻薬王の摘発
アディブ先輩を守ってレイターがケガをしたと聞いてティリーは動揺した。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>第二話「麻薬王の摘発」まとめ読み版 (1)(2)(3)
レイターがわたしの身体を引き寄せ、頭を軽く撫でた。
「ティリーさん、可愛すぎ」
レイターの手のぬくもりが荒れた心を静めていく。
「ご、ごめんなさい。わたし変なことを言って。てっきり今回も特命諜報部の案件なのかと思って、心配したの」
偶然にしては偶然過ぎるけれど、チャムールも知らないと言っていたし、たまたま麻薬王が取引先の近くに潜んでいたのだ。
「……」
レイターが不自然に黙った。沈黙が流れる。
「どうしたの?」
「う~ん、正直に言うと、特命諜報部案件だったんだよな」
「今、あなた、銀河警察が突入した、って言ったじゃない」
「突入したのは警察さ。けど、そもそも間抜けな銀河警察に、麻薬王の潜伏先が割れるわけねぇじゃん」
「え?」
レイターは銀河警察のことをいつもバカにしている。
「アディブさんが、麻薬王の潜伏情報をつかんできたんだ」
「???」
意味がわからない。
「アディブ先輩がつかんできた、ってどういうこと?」
「彼女は、俺と同じ特命諜報部員だから」
「え? ええっ」
驚いた。でも、アディブ先輩ならこなせる気がする。
「麻薬王の野郎、アリオロンとも取引してやがったから、特命諜報部も追ってたんだ。そしたら、レギ星の潜伏先の情報が出てきてさ。証拠をつかむためにアディブさんが向いの業者に売り込みをかけて隠しカメラを仕込んだのさ。で、その情報を、銀河警察に教えてやったんだ。今回の俺の仕事は裏も表もアディブさんの警護だったってわけ」
アディブ先輩がレギ星に営業をかけたのは半年以上前だ。わたしの知らないところで世界はじっくりと動いている。
「ティリーさんにこんな話をするのは、新鮮だな。俺、昔、アディブさんに命を助けられたことがあってさ。だから、彼女にケガをさせるわけにはいかねぇんだ」
「そうだったのね」
「さっき、アディブさんと特命諜報部のことティリーさんに明かそうって、話してたんだ」
ようやく飲み込めた。アディブさんに対するレイターの雰囲気が違う理由が。レイターにとってただのクライアントじゃない、同士なのだ。
わたしは一人で勝手にヤキモチを妬いていた。恥ずかしい。
軍の仕事の話を今回初めて聞いた。
銃弾が飛び交うあのニュース映像が浮かぶ。『厄病神』のこの人は、危ないところへ直接、足を踏み入れているんだ。
下を向いたわたしのあごを、レイターの手が持ち上げた。
レイターの青い瞳がわたしを見つめている。
「ただいま」
「お帰りなさい」
一つ間違えばレイターはここにいなかったかもしれない。
一週間ぶりに唇を重ねた。
生きて帰ってきてくれて本当にうれしい。黒い気持ちが浄化される。あふれ出す透き通った感情に身体が震えた。
*
「レイターは疲れてるでしょ。手もけがしているから、わたしが夕飯を作るわ」
と申し出てみたのだけれど、
「じゃ、これ頼もうかな」
と言って、レイターがドンっと冷蔵庫から取り出したのは大きな肉の塊だった。
「レギ星で、みやげ買ったって言ったろ。レギ地鶏って絶品なんだぜ」
一羽丸ごとの鶏肉。
肉の解体から調理を始めろと。それは、わたしには無理だ……
「帰ってくるのが遅れたから、この肉、ちょうど今が食べごろなんだよ。きょう食べる分はソテーにして、ももはフライドチキン、残りはシチューに、してぇんだよな」
「……」
困っているわたしを見てレイターがにやりと笑った。
「フフ、ティリーさんの右手より、俺の左手のが百倍マシだからな」
「いじわる」
レイターは左手に包丁を持って肉をさばきだした。
「これは左利き用ナイフなんだ」
両利きのこの人は、相変わらず器用だ。わたしの出番がない。
「手伝えることあれば言って」
「じゃあ、ソース作るから、ボウル押さえてくれるかい」
わたしが両手で支えるボウルの中を、レイターが左手で手早くかきまぜる。シャカシャカ見る間にクリームが泡立っていく。早回しの動画見たいだ。
ふたりの共同作業。こんな単純なことが楽しくてうれしい。 最終回へ続く
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