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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(23)
レイターがどこでテニスを覚えたのかたずねるとセデス王子の名前が返ってきた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① ② (12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)(22)
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レイターが肩をすくめて笑った。
「ご名答。あいつ、自主練とか言って、俺ら警護官に球をぶつけて喜ぶわ、変化球が打てなけりゃ首とか言い出すわ、で、みんな嫌がってたんだ」
セデス王子のテニスは随分と荒っぽい。言われてみるとレイターのフォームはどことなくセデス王子と似ている。
「我流で覚えたってわけね」
「テニスなんて二度とやるもんか、と思ってた」
「それで嫌いなんだ」
ママがレイターに声をかけた。
「王子様の警護もするなんて、レイター君はすごいわね」
「だから、レイターは皇宮警備にいたんだってば」
と口にしてから、後悔した。パパの前で軍に関わる話題は避けるべきだった。
パパが不機嫌そうな顔でわたしを見た。
「ティリー、お前は騙されているんだ」
「だまされてる?」
「調べてみたら、皇宮警備官というのはハイスクール中退では務まらんのだ。大卒の学力が必要なんだぞ」
パパったら、昨日の話を聞いて皇宮警備について調べたんだ。
「俺は、皇宮警備官じゃねぇよ。皇宮警備予備官だ」
「なんだ、予備官なのか」
パパが鼻で笑った。その態度がわたしの心に火をつけた。
「パパ、予備官だって、試験は同じレベルなのよ! 調べるならちゃんと調べてよ。レイターはその試験に十四歳といいう最年少で合格したし、ハイスクール中退って言ってもセントクーリエにも入学したんだから」
「セントクーリエだと……」
パパが固まった。優越感で心がくすぐられる。超難関校のセントクーリエは入学するだけでニュースになる。レイターがセントクーリエの出身と聞いた時にはわたしも驚いた。
後ろからレイターのめんどくさそうな声が聞こえた。
「ったく、別にどうだっていいだろが、そんなこと」
「そうね、どうだっていいことだわ」
ママがにっこりと微笑んだ。レイターの学歴でパパに張り合おうとした自分が気恥ずかしくなった。
思い出したようにレイターが胸ポケットから何かを取り出し、ママに渡した。
「あの。これ、ありがとうございました。濡れててすみません」
「あら、洗わなくてもよかったのに」
白いハンカチ。レイターが手を怪我した時にママが渡したものだ。
「レイター君。わたしのことお母さんと呼んでくれていいのよ」
「は? お、おかあさん?」
間の抜けた声。レイターが顔を赤くして目をぱちくりさせている。
「ママったら、突然何を言い出すのよ」
結婚前提でつきあってるわけでもないのだから。
「あら、アンドレ君だって、わたしのことお母さんって呼んでたじゃない」
「それは、そうだけど……」
「絶対に許さん」
パパが口を挟む。
「わしのことをお父さんとは、絶対呼ばせんぞ」
「言われなくても呼ばねぇよ。こっちから願い下げだぜ」
まずい、売り言葉に買い言葉。二人をつなぐ縁という紐は今にもちぎれそうだ。何のために遠く故郷まで帰ってきたのか。
打つ手が思いつかないわたしに代わって、ママが優しくレイターに声をかけた。
「きょうはいろいろあったけれど、楽しかったわ。また、遊びにいらっしゃいね」
そこへ、パパの怒鳴り声が突き刺さった。
「二度と来るな!」
「ああ、金輪際来ねぇよ。とっとと帰るぜ」
レイターはわたしの手をぐいっとつかんでパパに背を向けた。ビリっと紐の繊維が破れる音が聞こえた。今回のミッションは失敗に終わった。
*
帰途に就いたフェニックス号の窓から緑色に輝くアンタレスBを見つめる。パパとレイターの関係を良好にする、というわたしの願いを神様は叶えてくれなかった。都合のいい時だけの神頼みじゃダメということなのだろう。
「アーサーん家に寄ってから帰るけどいいか?」
「月の御屋敷?」
「ああ、みやげを届けに行きてぇんだ」
アーサーさんにアンタレス名物の太陽飴を買ったことを思い出した。
居間のソファーの上でレイターが右足の靴下を脱いだ。びっくりした。足の甲が真っ赤に腫れている。
「どうしたの?」
「ん、ちょっと骨にヒビが入った」
こともなげに言いながら、レイターは足にテーピングテープを巻き始めた。
「骨にヒビって、大丈夫なの? いつやったのよ? もしやアンドレとテニスで対戦した時?」
レイターがむっとした顔した。 (24)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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