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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(4)
レイターは敵のハゲタカ大尉が操縦する戦闘機の映像を初めて見た。
・銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)
連邦軍とアリオロン軍の戦闘機の能力は拮抗している。
腕が物を言う世界だ。
タルバニア海戦で、ハゲタカ大尉はそのスピードと破壊力で連邦軍機を次々と撃ち落としていた。
ハミルトン少尉も蝶のごとく華麗な飛ばしで敵機を撃墜し踏ん張っていたが、連邦側最後の一機になった。
アリオロン側は、まだ十機残っていた。十対一だ。
ハゲタカ大尉は単身でハミルトン少尉に向かってきた。一対一の一騎打ち。
残りのアリオロン機は待機している。
ハゲタカ大尉が仕留めるのを確信している。
性能に違いがないはずなのに、ハゲタカ大尉の機体は速度が違うように見えた。
そして、急角度で撃ち込んでくる。
間一髪、ハミルトン少尉がひらりとかわし、そのまま撃ち返す。
いい狙いだ。
だが、敵も速い。ハゲタカ大尉がよける。
自分ならあの攻撃で撃墜されている。同じことをレイターも考えている。
ハゲタカの猛攻を、蝶が軽妙にかわす。
高レベルな対戦だった。
戦闘機乗りのお手本とも言える。
しかし、この映像をこれまで見たことはなかった。
なぜ封印されていたのか。その理由は最後にわかった。
激戦の終盤、ハゲタカ大尉の撃った一撃がハミルトン少尉の翼をかすめた。航行に支障はないが、一ミリが勝敗を左右する高次元の操縦はできなくなる。
羽に傷を負った蝶に、容赦なくハゲタカが襲い掛かる。
「俺は撃墜されている」というハミルトン少尉の声が思い出された。
と、ハミルトン機は急反転し、一気に超高速で飛び出した。
戦線離脱。ハミルトン少尉は逃げたのだ。
ハゲタカ大尉は追いかけなかった。”逃げのハミルトン”こういうことだったのか。
「これ、コピーしてくんねぇか」
レベル四の情報を複製するには許可が必要だ。無断複製ができなくもないが、
「少し待て」
私は、正式な手続きを取ることにした。
私の申請が拒否されたことはない。すぐに許可が下りた。
コピーしたデータをレイターのデータベースに移植する。厳密にいえば情報管理違反だが、この部屋限りであれば処分には至らないだろう。
「データを絶対外へだすなよ。二度と見られなくなるぞ」
「わかった」
レイターは自分の端末モニターの前に座るとコマ送りにして作業を始めた。アリオロン機の航行ログは自動生成されない。
レイターはコンドルマークの機体の映像を見ながら座標をプロットして、手入力で航行ログを作りだした。
いつまでもモニターの前から離れない。
例によって、恐ろしいほど集中力が持続している。
ザブリートさんの調理場へバイトに出かける以外は、ずっと端末に張り付いて作業に没頭している。
食事は調理場のつまみ食いで済ませているようだ。
どこかで仮眠は取っているのだろうが、きょうで三日三晩の徹夜。
少し休んだほうがいいんじゃないかと思うが、今のこいつに何を言っても無駄だ。
私は寝床に入った。
「できた!」
寝入りばなに、レイターの甲高い声で目が覚めた。
出来上がった航行ログは、二つの意味で見事なものだった。
一つは丁寧に作られたこのアリオロン機の航行ログ自体の価値が高いということ。
もう一つは、ハゲタカ大尉の航行ログの軌跡。
レイターはログを見ながらうっとりとつぶやいた。
「美しすぎる」 (5)へ続く
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