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銀河フェニックス物語 <番外編> この街がすき ショートショート
「あなたの好きな街を教えてください。抽選で十名様に素敵なプレゼントを差し上げます」
フェニックス号で宇宙船レースを見ていたら、不動産屋のコマーシャルが入った。
「ねぇ、レイターが、好きな街ってどこ? いろんな星へ出かけたんでしょ」
隣に座るティリーさんがピザをつまみながら俺に顔を向けた。
「あん?」
俺は『銀河一の操縦士』だ。ソラ系中心部から、銀河の先の戦地までどこへでも船を飛ばしてきた。すぐには答えが出てこなかった。額に手を当てて考えてみる。
「街っつうか、俺は宇宙を飛んでる時が好きなんだよな」
漆黒の闇。何者にも干渉されない空間にエンジン音だけが響く世界は、俺を安心させる。
「それじゃあ、プレゼントはもらえないわよ」
「ふむ」
二度と行きたくねぇって星はいくつもある。逆に、好きってことは、また行きてぇ街を考えればいいのか。
「わたしはやっぱり、故郷のアンタレスかな。のんびりできるもの」
故郷ってのは多くの人にとって好きな街なのだろう。宇宙船乗りにとっても母港だ。
だが、俺は違う。地球には帰る場所もねぇし、帰りたくもねぇ。
ただ、ふと、青い地球を懐かしく感じた。月から見る地球は美しい。
遠い昔、永遠の愛を誓ったあの日も、俺とフローラの目の前で宝石のように輝いていた。
俺の住居登録地は将軍家の居宅「月の屋敷」だ。縁あって、二年ほどそこで暮らした。
月での生活は、凪のように平穏だった。ハイスクールの友人とゲーセンで宇宙船飛ばして、喧嘩して、買い食いして、サッカーして、遊んで、恋をして……
温もりが常に隣にあった夢のような時間は、シャボン玉のように一瞬ではじけ飛んだ。
珍しいな、あの頃のことを思い出すのは。
身体の弱い彼女を連れて、こっそり出掛けた月のショッピングモール。アマ星の石でできたペンダントを買った店は、まだあるのだろうか。
今はもうどこにもいないフローラとデートした月の街。
今の彼女を前にして、昔の彼女と出かけた場所が頭に浮かんでくるってのは問題だな。
あの街にもう一度行きてぇと俺は思っているのだろうか。
けど、わかってる。俺が今こうして過去と向き合えてるのはティリーさんがいるからだ。だから、俺は正直に伝える。
「故郷じゃねえけど、月もいいかな」
ティリーさんが吹き出した。
「思った以上に平凡ね。月ってレイターの故郷みたいなもんでしょうが。銀河一の操縦士のことだから、どこかのレース場でも言い出すんじゃないかと思ってたわ」
「そっか、その手があったか。そうだな、ナセノミラもいいな、いや、テッグレスか。ネル星の小惑星帯も捨てがたいな」
俺は調子に乗ってしゃべり続けた。
俺はうれしい。
俺の彼女は、俺より俺をわかってる。ティリーさんと飛ばせば、もう一度行きてぇ星が増えていくに違いねぇ。
「この街がすき」って言える場所が、俺を待っている気がした。 (おしまい)
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