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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  ジョーカーは切られた(9)

ティリーはレイターが帰ってくるのをフェニックス号の外で待っていた。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版 

「ただいまっ、ティリーさん」
 レイターの声は明るいけれど、顔色はよくない。目をのぞき込むと焦点があっていない。

「大丈夫? あなた、目が見えないの?」
「ふむ、月のない真夜中みてぇだ。かわいいティリーさんのお顔が見えねぇのは残念だな」
 彼はわたしの頬を両手で包みこむと、そっとわたしの涙をぬぐった。
 熱があるのか手が熱い。

髪に触れる

「泣くなよティリーさん。二、三日もすりゃ治るさ。目が見えなくてもキスにゃ困んねぇよ」
 と言いながらレイターが唇を重ねてきた。
 キスをしながらも、わたしの涙は止まらなかった。

 レイターの目が心配なことに加えて、パリス警部が口にしたわたしの知らないレイターが不安を増幅させている。この人が『裏社会の帝王』の跡取り候補。
 レイターはわたしの髪をくしゃくしゃとなでながら耳もとでささやいた。
「何かあったのか?」
 いつもと変わらない声だった。わたしの知っているレイターだ。
「わたし、レイターのこと信じてるから」
 顔を見上げてそう答えるのが精一杯だった。

 レイターは笑顔を見せた。
「さては、パリスの親父に変なこと吹き込まれたんだろ。グレゴリー一家の大悪党とかなんとか」

皇宮白黒

 どきっとしながら、小さくうなずいた。
「大悪党じゃなくて極悪人」
「ほんとバカだな」
 そう言うとレイターはわたしを強く抱きしめた。

「ったくあの親父も一度でも俺を逮捕してから言え、ってんだ」
 この人の中には、悪いことを躊躇なくできるレイターと、他人のために命を投げ出せるレイターが共存している。
 わたしの知らない過去のレイターがたくさんいる。それでも、目の前にいるレイターはわたしの大好きな彼氏だ。

 レイターの胸の鼓動がわたしの身体に響く。乱れた心の波動が整ってくる。

* *

 フェニックス号の居間で警察官のマーシーは船内を見回した。
 変わった船だ。操縦席が分離されていない。こんな船は初めて見る。パリス警部は部屋の外で本部と連絡を取っていた。

 レイターの彼女だというティリーさんが僕たちにコーヒーをいれてくれた。
 レイターは船の中で全く不自由なく歩き回っているから、つい目が見えないことを忘れてしまう。
 机の上に置いたコーヒーカップを手で探すレイターを見て、隣に座る彼女があわてて手に持たせた。

 幼なじみだったというジムが驚く。
「レイター、目が見えないんスか?」

ジム 横顔驚き逆

「あんた、何、言ってんだ今ごろ」
「だって、走ってたじゃないスか。さっき」
「足が悪いんじゃねぇんだから走れるさ。とにかくジム、ありがとな」
「とんでもないッス」
「ジム、そのパシリみたいなしゃべり方やめろよ。昔はため口だったじゃねぇか」

「おいら、レイターについていくって決めたんスよ」
「はぁ?」
「おいらがグレゴリー一家にいるのは、レイターが跡を継ぐために帰ってくると思ったからで」

 ティリーさんがビクッと反応した。
「ジム、俺の彼女が驚くだろが。変なこと言うな」
 そう言ってレイターは正確にジムの頭をはたいた。

はたく

「痛てぇ」
「レイター、やめなさいよ」
 ティリーさんが止める。

「さすが、おかみさんッス。レイターがナンバーツーのスペンサーなんかとは格が違うってことはみんな知ってるんスよ。ダグだってレイターに後を継いで欲しがってるし」
 彼は間違いなくダグの後継候補だ。
「言っとくが、俺は一度だってファミリーに入ってたことはねぇんだからな。ティリーさんも刑事さんも勘違いしねぇように」    (10)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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