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銀河フェニックス物語<少年編>第八話(3)ムーサの微笑み

レイターは通信兵のヌイに教えてもらいながらギターに触り、Cコードを鳴らした。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>「ムーサの微笑み」 (1)(2
<少年編>マガジン

「ちょっと待ってな」
 僕はタブレットを開いた。指の押さえる場所を示したギターコードの運指表はいくらでもある。
「これ見てみな。わかるかい?」
「うん」
 レイターは運指表を見ながら器用に指を扱った。

 身体が小さいこいつには、ギターが大きすぎるかと思ったが、
「お前さん、思ったより指長いんだな」

ヌイ正面軍服前目微笑

 コードのFも苦労しながら押さえている。

 僕が初めてギターを手にした時のことを思い出す。

 ちょうどレイターと同じ十二歳だった。無理を言って誕生日のプレゼントとして親に買ってもらった。
 届いてからずっと寝るまで、いや寝る時もギターを手元に置いていた。
 運指表を見ながら音が作られていくのを楽しんでいた。夢の中でも、目が覚めてもギターのことを考えていた。

 夢中になって楽曲を作った。
 音楽の女神ムーサがいつも僕と共にいた。あの頃の自分とレイターが重なって見える。

 僕らの様子を横で見ていたバルダンは、立ち上がると突いたり蹴ったり、また身体を動かし始めた。

バルダン殴る

 どのぐらい時間が経ったのだろう。レイターは運指表を見れば一通りのコードを弾けるようになった。
 まるでスポンジが水を含む様な勢いで指の運びを覚えていく。

「お前さん、何か楽器やってたのかい?」
「鍵盤やってた」
 答えを聞いて納得する。いいセンスをしている。

 そして、レイターはゆっくりとギターでコードを弾きながら歌った。『夏の日の雲』を。
 指使いはたどたどしいが、すごいな。彼の集中力は。耳で僕の曲を完璧にコピーしている。
 声変わりしていない声は天使の様だ。音程にブレがない。 

「おっ、レイター上手いな。合唱団だったか?」

 子どもの頃、合唱団にいた、というバルダンの指摘は当たっているかもしれない。レイターは発声がきちんとできていた。
「合唱団はやってねぇけど、俺の母さんは音楽の先生だったんだ」
「へえ」
 レイターは誇らし気な顔で続けた。
「母さんは、セントラル音楽学院で声楽勉強してたんだぜ」
 セントラル音楽学院と言えば、地球にある音楽の超名門校だ。そうか、レイターは純正地球人だったな。

「俺でも知ってるぞ。入学するだけでプロが約束されるんだろ」
 バルダンが尊敬の眼差しを向けると、レイターは自慢げににっこり笑った。
「そうさ、すごいだろ」

アイス少年大笑いにやり逆

 レイターの両親は亡くなったと聞いているが、痛々しいほど母親のことが好きだと伝わってくる。まだ、十二歳だもんな。

 レイターは夕食の片付けを終えると、僕たちの部屋へ顔を出すようになった。
 目当てはギターだ。みるみる曲を弾けるようになっていく。

 怖い顔に似合わずバルダンは歌が好きだ。
 合唱団にいただけあって結構上手い。思わぬリクエストをしてくる。
 これまで、僕が伴奏を担当していたけれど、最近はレイターが練習を兼ねて弾いている。

「『涙の一番歌』って弾けるか?」
「何だそれ? じじくせぇな」

ミニ顔チェックシャツやや口

「こんな感じだ」
 フフフフン、とバルダンが鼻歌を歌う。
 レイターは一度曲を聞けば耳コピができる。すぐにコードで伴奏し、バルダンは気持ちよさそうに熱唱した。

 レイターは楽譜も読めるし、絶対音感も持っている。鍵盤をやっていたと言っていたな。僕は思いついた。

「バルダン。文字入力のキーボードを貸してくれないか」       (4)へ続く 

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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