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銀河フェニックス物語<少年編> 流通の星の空の下(最終回)
・<少年編>「流通の星の空の下」(1) (2) (3) (4)
・銀河フェニックス物語 総目次
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「操縦桿に触っちゃったみたいで、船が勝手に動き出したんです。とっても怖かったです」
警察官に対しレイターは、怯えたような顔をして、心にもないことを口にしている。
おそらくこれは、普通の十二歳のふり。
まどろっこしい作戦だと思ったが、そうじゃない。
無免許のレイターは、自分が操縦できることを警察に隠すため、一回だけしか操縦桿を握らなかったのだ。
普通に操縦する方がよっぽど簡単だ。
僕たちの船の修理費は警察が立て替えてくれた。
あとで窃盗団から取り立てるそうだ。
警察官が立ち去ると、レイターはニヤリと笑った。
「さすが流通の星の警察は、処理も早くていいねぇ」
彼は警察の動きまで計算に入れて作戦を立てていた。
机上ではなく経験則に基づいて練られている。
かなりの場数を踏んでいるということだ。
*
牽引する接続部が壊れたため、アレクサンドリア号までコンテナ船を自力飛行させることにした。
ザブリートさんがコンテナ船の簡易操縦席に移動し、レイターがその助手席に座った。
僕の牽引船が併走する。
レイターとザブリートさんのやりとりが聞こえてきた。
「なあ、頼む、俺に操縦させてくれ、お願いだ。頼む。芋の皮むきでも何でもやるから」
レイターはしつこくてうるさい。
「さっき操縦すればよかったじゃないか。というかお前、操縦できないんだろ?」
「大丈夫だよ。まっすぐな通りをちょっと動かすだけだからさぁ。シミュレーター訓練はやってんだよ。なっ、なっ」
「しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞ」
「イェーイ!」
ザブリートさんが根負けした。操縦席をレイターに譲ったのがわかった。
レイターが僕に声をかける。
「おい、アーサー。競争しようぜっ」
僕は無視した。相手をする気はさらさら無い。
が、
「レイター! スピード出しすぎだ」
ザブリートさんの慌てた声が聞こえた。
コンテナ船がどんどんと速度を上げていく。
「久しぶりだぜ、この感じ」
どういうことだろう、簡易操縦のコンテナ船であんなスピードが出るはずがない。
僕が加速して近づくと、レイターはすっと逃げた。
上手い。
つい、僕は本気になって追いかけた。
「はんっ、お坊ちゃんには捕まらねぇよ」
『銀河一の操縦士』になりたい、というレイターの技術は思った以上に高い。
マフィアのダグ・グレゴリーを乗せて船を操縦していた、と言うのは本当だな。
レイターは、コンテナ船をまるで戦闘機のように扱い、急旋回させた。
「レイター! やめろ、荷物が載ってるんだぞ!」
ザブリートさんの怒声で、僕は冷静さを取り戻した。
自分としたことが、挑発に乗って宇宙船の鬼ごっこを楽しんでしまった。生鮮品を傷つけたら任務が完遂できない。
「大丈夫だよ。ちゃんと考えてる。楽しさが止まらないぜぃ」
レイターは更にコンテナ船を加速させたが、僕はもう追いかけるのをやめた。
通信機からザブリートさんのあきれた声が聞こえた。
「品物が棚から落ちてたら、バイト代から差っ引くからな」
*
アレクサンドリア号に着く直前で、レイターとザブリートさんが操縦を入れ替わった。
着艦してコンテナを開ける。
ザブリートさんと僕は驚いた。
棚から落ちるどころか、ケースの中の生鮮品はどれ一つとして、ずれてすらいなかった。
「な、考えてる、って言っただろ。鮮度のいい折角の魚を傷つけたら、味が落ちちゃうもんな」
レイターはにっこりと天使の笑顔を見せた。
(おしまい)
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