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銀河フェニックス物語<少年編> 流通の星の空の下(最終回)

<少年編>「流通の星の空の下」(1) (2) (3) (4)
銀河フェニックス物語 総目次
【少年編】のマガジン

「操縦桿に触っちゃったみたいで、船が勝手に動き出したんです。とっても怖かったです」

12笑顔泣きそう小@2

 警察官に対しレイターは、怯えたような顔をして、心にもないことを口にしている。
 おそらくこれは、普通の十二歳のふり。

 まどろっこしい作戦だと思ったが、そうじゃない。

 無免許のレイターは、自分が操縦できることを警察に隠すため、一回だけしか操縦桿を握らなかったのだ。
 普通に操縦する方がよっぽど簡単だ。

 僕たちの船の修理費は警察が立て替えてくれた。
 あとで窃盗団から取り立てるそうだ。

 警察官が立ち去ると、レイターはニヤリと笑った。

「さすが流通の星の警察は、処理も早くていいねぇ」
 彼は警察の動きまで計算に入れて作戦を立てていた。

 机上ではなく経験則に基づいて練られている。 
 かなりの場数を踏んでいるということだ。



 牽引する接続部が壊れたため、アレクサンドリア号までコンテナ船を自力飛行させることにした。
 ザブリートさんがコンテナ船の簡易操縦席に移動し、レイターがその助手席に座った。
 僕の牽引船が併走する。

 レイターとザブリートさんのやりとりが聞こえてきた。
「なあ、頼む、俺に操縦させてくれ、お願いだ。頼む。芋の皮むきでも何でもやるから」

ザブリートとレイター

 レイターはしつこくてうるさい。

「さっき操縦すればよかったじゃないか。というかお前、操縦できないんだろ?」
「大丈夫だよ。まっすぐな通りをちょっと動かすだけだからさぁ。シミュレーター訓練はやってんだよ。なっ、なっ」

「しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞ」
「イェーイ!」
 ザブリートさんが根負けした。操縦席をレイターに譲ったのがわかった。

 レイターが僕に声をかける。
「おい、アーサー。競争しようぜっ」
 僕は無視した。相手をする気はさらさら無い。

 が、
「レイター! スピード出しすぎだ」
 ザブリートさんの慌てた声が聞こえた。

 コンテナ船がどんどんと速度を上げていく。
「久しぶりだぜ、この感じ」
 どういうことだろう、簡易操縦のコンテナ船であんなスピードが出るはずがない。

 僕が加速して近づくと、レイターはすっと逃げた。
 上手い。
 つい、僕は本気になって追いかけた。

少年十二歳むカラー

「はんっ、お坊ちゃんには捕まらねぇよ」
 
『銀河一の操縦士』になりたい、というレイターの技術は思った以上に高い。
 マフィアのダグ・グレゴリーを乗せて船を操縦していた、と言うのは本当だな。

 レイターは、コンテナ船をまるで戦闘機のように扱い、急旋回させた。

「レイター! やめろ、荷物が載ってるんだぞ!」
 ザブリートさんの怒声で、僕は冷静さを取り戻した。 

 自分としたことが、挑発に乗って宇宙船の鬼ごっこを楽しんでしまった。生鮮品を傷つけたら任務が完遂できない。

「大丈夫だよ。ちゃんと考えてる。楽しさが止まらないぜぃ」
 レイターは更にコンテナ船を加速させたが、僕はもう追いかけるのをやめた。
 通信機からザブリートさんのあきれた声が聞こえた。
「品物が棚から落ちてたら、バイト代から差っ引くからな」

 アレクサンドリア号に着く直前で、レイターとザブリートさんが操縦を入れ替わった。
 着艦してコンテナを開ける。

 ザブリートさんと僕は驚いた。
 棚から落ちるどころか、ケースの中の生鮮品はどれ一つとして、ずれてすらいなかった。

「な、考えてる、って言っただろ。鮮度のいい折角の魚を傷つけたら、味が落ちちゃうもんな」

アイスなし少年両目

 レイターはにっこりと天使の笑顔を見せた。
(おしまい)

<出会い編>第二十一話「彷徨う落とし物」へ続く

<出会い編>第一話のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」