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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(35) 決別の儀式 レースの途中に

銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」①   
第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」①  (29) (30) (31) (32) (33) (34)

 思い通りのタイミング。水色のガード柵を右に見ながらすべらせる。アウトサイドの隙間は完全にふさいだ。

 裏将軍が視界から消えた。衝突を避けて引いたか?

 ん、バカな?

 突然ハールが機体をひねらせながらインサイドに入ってきた。
 ここはアウトサイド狙いじゃなかったのか。
 くっ、機体をぶつけてでも止める。

 舵を切ったそのわずかな隙に、逆側から強引にねじりこんできた。なんて加速だ。想定外の速さ。メガマンモスか。

 危険ラインが三次元で面になる。
 心臓がバクバクする。皮膚が張り付くこの嫌な感覚。久しぶりに襲いかかってくる。

 死を恐れぬ裏将軍。
 違う、これはガンマールだ。

 末弟が僕の脇を通り過ぎていくのを感じた。

 ああ、この感じだ。

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 ガンマールが僕を追い越すときに感じた、手足のすくむ感じ。
 大人になった僕は、その感覚をあらわす言葉を知っている。

 畏怖だ。

 コーナーガード柵が切れるギリギリのラインを、きっちり読み切られた。
 僕とベータールが『兄弟ウォール』と呼ばれながらずっと追い求めてきた、危険な世界。

 まずい、水色の光が目の前に広がる。次のガード柵だ。

 思いっきり操縦桿を切る。
 かわせない。

 青白い火花が散った。衝突で機体のエンジンが停止し、きりもみしながらコースから外れていく。


 僕らは、末弟ガンマールの飛ばしを生かそうと、危険な飛行も恐れずに飛ばしてきた。

 だが、今わかった。

 それはしょせん、ガンマールの真似事でしかなかった。
 お前が飛ばしていた世界は次元が違う。

 僕とベータールは、裏将軍に負けたんじゃない。

振り向きの2逆

 ガンマール、お前の過ごした世界に負けたんだ。


* *


 ティリーはドキドキした。

 すごい飛ばしだった。難所の連続ヘアピンカーブ。
 レイターが、『兄弟ウォール』を内側から抜く瞬間を見てしまった。

 たまたま、三位と四位を映しているモニターを見たら、あまりに緊迫したレースに目が離せなくなった。

 アルファールのドリフト飛行をあんなスレスレでかわして前へ出るなんて。しかも危険飛行も取られていない。さすが『銀河一の操縦士』だ。

n11ティリー@2白襟 やや口驚き

 でも、クロノスのピットでは誰も気が付いていない。
 トップ争いが大変なことになっている。

『無敗の貴公子の最終戦、残すところ三周です。ギーラルのオクダとのデッドヒート。オクダがコーナーで加速しました。エースがブロック。おおっと、接触、火花が飛んでいます』
 エースとオクダが接触した。
 思わず息を飲む。

『二機はそのまま速度を落とさず飛んでいます。最後に栄冠をつかむのはどっちだ!』


* *

 二位をキープするギーラルのオクダは、前を飛ばすエースのプラッタだけを見ていた。

エースとオクダむ

 追い越しをかける。
 ちっ。エースにブロックされた。翼が接触。飛行に影響なし。

 次の勝負はどこでかける? 
 多少無理してでも勝ち取れ、と監督からも言われている。

 あと三周。俺は、きょうこそ勝利をつかむ。

 
 予選でポールポジションを取りたかった。
 いいタイムが出たから行けるかと思ったが、ギリギリでのがした。
 エースも気合が入っているのがわかる。予選から最高ラップと全開だ。

 相変わらずいいラインでエースは飛ばしている。
 だが、俺もぴったりとついている。勝機はある。

 俺の両親は、小さな宇宙船修理工場を経営している。
 船が好きで人のいい親父。工場はいつも赤字で、母親は怒ってばかりだ。

 俺は宇宙船が大好きで、子供のころから工場に入り浸っていた。親父の手伝いでシミュレーターを操作するのが楽しくて仕方なかった。
 宇宙船レースに憧れていたが、うちにはジュニアチームに入る金なんてないから、見る専門だ。工場が休みの日にシミュレーターにレースのデーターを入れて飛ばすのが俺の楽しみだった。

 俺は、家業を継ぐために工業専門学校へ通い、そこで強豪の宇宙船レース部に所属した。
 レース用の免許を取って実際に船を飛ばしてみたら、俺には才能があった。
 新入生ですぐにレギュラーになり、次々と大会で優勝した。

 そこからは、トントン拍子だった。

 専門学校卒業と同時に、ギーラル社のレーサーとして採用された。
 S3で優勝し、S2へ最短で進み、みるまに結果を出してS1レーサーに選ばれた。

 家族は大喜びだ。俺の活躍で親父の工場は繁盛し、母親の機嫌もよかった。
 ちょうど時を同じくして、ジュニアクラスからエースが大抜擢でS1にやってきた。

 俺が二十歳。あいつが十八歳だった。     (36)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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