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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(1)
戦艦アレクサンドリア号、通称アレックの艦。
銀河連邦軍のどの艦隊にも所属しないこの艦は、要請があれば前線のどこへでも出かけていく。いわゆる遊軍。お呼びがかからない時には、ゆるゆると領空内をパトロールしていた。
アレクサンドリア号に軍司令本部から出動の命令が下った。
出動と言っても戦闘ではない。フチチ星系軍の観艦式への参加だ。
「なあ、アーサー、観艦式、って軍艦や戦闘機がいっぱい集まるんだろ。ニュース動画で見たことあるぜ。ワクワクするな」
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宇宙船お宅のレイターが目を輝かせている。状況がわかっていないようだ。
「遊びじゃないんだぞ。フチチは前線だ。現時点で戦闘は発生していないが 停戦協定を交わしているわけじゃない。いつ交戦状態になってもおかしくない一触即発の状況だ。ソラ系中心部の観艦式とは意味が違う」
フチチ星系はソラ系銀河の周縁に位置している。暗黒星雲を挟んだ向こう側には敵アリオロン同盟の軍事基地がある戦闘警戒宙域だ。要衝のフチチには現地軍に加えて我が連邦軍が駐留している。
「ふ~ん。そんなところで戦力を見せびらかしたら、敵さんを刺激して、ドンパチおっぱじめちゃうんじゃねぇの?」
「逆だ。フチチ軍を連邦軍がバックアップしていることを示すことで、アリオロンが攻め込むことを躊躇させる。抑止力だ。このところアリオロン軍機が暗黒星雲を抜けて領空侵犯してくるケースが相次いでいるからな」
「なんで?」
「アリオロン同盟軍の最高司令官でもあるドルゴラータ盟主は好戦派だ。『銀河融合』に備えて隙あらば攻めておきたいのだろう」
当たり障りのない答えをしておく。
「『銀河融合』って俺たちが死んだ何百年も後の話だろが」
「……」
僕は応えなかった。これ以上は機密だ。
「アリオロンの偉いさん、ってさ、五年に一度くじで決まるんだろ?」
「そうだ。アリオロンは盟主抽選制を取っている。くじで選ばれた盟主が好戦派か厭戦派か、その結果で我々連邦の対応も変わる」
昨年実施された盟主抽選で前任に続き好戦派の盟主が選ばれた。五年間は軍事的な緊張関係が続く。
「ふぅ~ん。逆にうちら連邦は将軍家のあんたんちみたいに世襲だから全然変わんねぇよな。アリオロンとずっと戦争を続けてんのは将軍家が続くための陰謀じゃねぇの?」
レイターはなかなか鋭い。この戦争が終結しないのは既得権益が原因の一つだ。あとは人々の無関心。
*
宇宙三世紀前、ソラ系天の川銀河と隣のアリオロン銀河が衝突し融合するという予測が発表された。
レベルが同等な二つの文化圏が重なり合う。
君主制を採用しているソラ系銀河連邦の評議会は、革命が起きるのではないかと恐れ、一方、抽選制のアリオロン議会は、連邦の王政は相入れない、と対決機運が高まった。
銀河融合後をにらんだ政治体制をめぐる覇権争い。外交で勝つため、という理由で求められたのが物理的な強さだった。
銀河連邦総会で共通の軍隊創設が承認された。各星系から資金と兵力の提供を受けて連邦軍が誕生。そして、評議会の常任理事だったトライムス家の分家、すなわち我が家系が将軍職を代々務めることになった。
クローゼットから式典用軍服を取り出し手を通す。あつらえてから背が伸びたが、特に問題はないな。
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マントもしわになっていない。
レイターが鼻で笑った。
「なんだその格好。絵本の中の王子さまかよ」 (2)へ続く
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