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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第三話 大切なことの順番(3)
レイターにドタキャンされたティリーはレイターの友人ロッキーを誘い、故郷アンタレスの料理を食べていた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>第二話「麻薬王の摘発」まとめ読み版
楽しいのに、小さな穴から空気が漏れていくような感覚。
いや、そんなことを考えるのはロッキーさんに失礼だ。わたしはアンタレス料理について、ロッキーさんに一生懸命説明した。
「これがアラゴマっていう、地元の実を使った薬味なんです」
「へぇ、初めて食べるけどいい香りだね」
「健康にもいいんですよ」
母が作る味はこの店のものとは少々違う、とか、実家の近くのお店は辛口が評判だとか……しゃべることはいくらでもある。
ロッキーさんは、うれしそうに相づちを打ちながら聞いてくれた。
「今度は本場に行って食べてみたいなあ」
話せば話すほど悲しくなってきた。
ロッキーさんは何も悪くない。悪いのはレイターだ。
レイターにここにいてほしかった。彼と話をしたかったのだ。わたしの故郷の話を。
きょうのこの時間が待ち遠しくて仕方がなかった。だから、おしゃれにも気合いを入れたのに……
*
アンタレスのお酒も取り寄せられていた。
近くの酒屋さんにもあまり置いてないから、飲むのは久しぶりだ。
「随分飲みやすいお酒だね。頼みすぎちゃいそうだよ」
「いいです。レイターのお金ですから。どんどん飲んでください」
アンタレス料理に、アンタレスの地酒はよく合う。ボトルで頼んだ。お金にうるさいレイターへの意趣返しだ。
次から次へと淡い桃色の液体をグラスに注ぐ。
お酒は魔法の水だ。
悲しい気持ちが、魔力で薄められていく気がする。
「ティリーさん、大丈夫かい?」
「らいじょうぶれす」
「オレ、レイターに怒られちゃうよ」
「れいたーのせいれすから、いいれす」
ロッキーさんが心配そうにわたしを見てる。これがやけ酒というものに違いない。でも、もう今日はどうなってもいい気分だった。
「せっかく、念入りにおしゃれしたのに」
「え、そうだったの? い、いや、そうだよね」
ロッキーさんは全然気づいてなかった。自分ではサイコーの出来だったのに。
でも、ロッキーさんは悪くない。悪いのは全部レイターだ。
「レイターなんて、船と心中しちゃえばいいんだぁ!」
荒れたわたしをなだめるように、ロッキーさんは言った。
「でも、本当はあいつもわかってるよ。船が人生の全てじゃないって」
ロッキーさんは、どこか抜けてて憎めない。
「さっき言ったことと矛盾してます。レイターは、船なしには生きられない、って言ったんれしょ。あたしなんていなくても、どうでもいいんれす」
ロッキーさんが真面目な顔をした。
「さっきの話の続きなんだけどさ。オレより船が大事って言うから、お前それ本気か、って突っ込んだことがあるんだ。そしたらレイターの奴、何て言ったと思う?」
「本気だ」
ロッキーさんは首を横に振った。
「あいつ『船は所詮たかが船だ』って言ったんだ」
ロッキーさんの言葉で少し酔いがさめた。
「めずらしい。レイターが船にそんな言い方するなんて」
彼が宇宙船に対して否定的な表現をするのは、ちょっと信じられなかった。
「オレも驚いてさ、お前は船さえあればそれでいいんだろって、もう一度聞いたんだ。そうしたらあいつ……」
そこまで言ってロッキーさんは突然口を濁した。
そして、明らかにこれを言ってはまずい、という顔をした。 (4)へ続く
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