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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(11) お出かけは教習船で

ティリーの操縦ミスでレイターたちが乗る船が小惑星にぶつかりそうになった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10
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 為す術もなく思わず目を閉じる。

 ガックンと衝撃が船に走った。身体が前につんのめり、シートベルトに引っ張られる。

 レイター!
 揺れる船内でモニターを確認する。

 アレグロさんの船は無傷だった。

 どこからか現われた小型機がアレグロさんの船をアームで押さえていた。間一髪、小惑星への衝突は避けられた。
 ワイヤーロープで繋がったわたしの船に、その反動が伝わったのだった。

 助かった。
 全身の力が抜けた。

 通信機から張りのある女性の声がした。
 
「『突風教習船』で裏将軍が飛ばしてるっていうから見に来てみたら、随分とへっぴり腰な教習船だわね」
 わたしの知っている声だった。

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「ヘレン!」
 レイターが叫んだ。
 操縦席の前に新たなモニターが開き、真っ赤なレーシングスーツに身を包んだ美しい女性が映った。御台所のヘレンさんだ。

「レイターはアレグロの船に乗ってるわけね。じゃあ教習船は誰が操縦してるのかしら?」
「わたしです」

 モニターにタッチしてヘレンさんへの通信回線を開く。
「あら、ティリーさん。お久しぶりね。おかしいと思ったのよ、レイターがあの小さなシートに座れるはずがないもの。苦戦しているようだけれど、あとは、あたしが牽引していけばいいかしら?」
「お願いします」

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 ヘレンさんがアレグロさんの船をアームでつかんだまま上方向へ向かった。わたしが乗った教習船は一緒に引っ張られていく。

 あっと言う間の出来事だった。

 ヘレンさんは二台を繋げた状態でものの二十秒もかからず、するするとアステロイドを抜けた。
 わたしだったら何分、いや、何時間かかったか、想像もできない。

「ヘレン、あんた、随分都合いい場所にいたじゃねぇの」
 レイターがヘレンさんにたずねた。
「そりゃ、総長には悪いけど一人にしておくわけにいかないでしょ」
「後を付けてたのか?」
 とアレグロさん。

「木星近くまでね。あとは一人で飛ばして遊んでたけど」
「あんた、相変わらず世話焼き女房やってんだ」
 レイターがからかうように言った。
 相変わらず、って過去にはレイターの世話焼き女房だった、という意味だ。
「何とでもおっしゃい」
 余裕のある大人の声。

 心がざわつく。

 あれはフェニックス号で初めてヘレンさんを見た時
 二人は挨拶とは思えない濃厚なキスをしていた。

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 あの場面の印象が強烈だったせいだ。考える必要のないことを考えてしまう。
 どす黒い苛立ちが身体の奥底から沸々と湧き上がってくる。

「ねえレイター、折角だから飛ばさない? 教習船見たら懐かしくなっちゃった。バトルでもいいわよ」
 ヘレンさんがレイターを誘った。

 ここはアステロイドの上級で、プロの飛ばし屋のヘレンさんはレイターと競う腕を持っている。そして、レイターは教官席でも十分に飛ばすことができる。条件がそろっている。 

「ば~か。裏将軍と御台所が総長と飛ばしてるなんてギャラリーが騒いでみろ、面倒この上ねぇだろが」
「あたしは構わないんだけどね」
 ヘレンさんは名残惜しそうだ。

 レイターは本音ではバトルがしたいはずだ。
 わたしに気を使っているんだ。非力な自分が突き付けられる。

 わたしがいなかったらレイターはヘレンさんの申し出を受けたに違いない。わたしさえいなければ……  
   (12)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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