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銀河フェニックス物語<少年編>第八話(12)ムーサの微笑み
ヌイのファンだという女性がライブを聴いていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>「ムーサの微笑み」 (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)
<少年編>マガジン
「お姉さん、きょうのライブ盤と、ヌイが一人で歌ったデータがあるよ。スタジオ収録じゃねぇから、二つで五百リルでいいよ」
「あら、ほんと。欲しいわ」
レイターは通信機を使ってみるまにデータと五百リルを交換すると、
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた。手慣れている。
あいつ、いつの間にライヴを録音していたんだ?
僕も彼女にお礼を伝えた。
「きょうは僕の歌をお聞きいただき、ありがとうございました」
「お礼を言うのはこちらです。ヌイさん。わたしは辛いことがあると、いつもあなたの歌を聴くんです。そうすると勇気づけられて、元気が湧いてくるというか。きょうは新曲が手に入ったのでパワーアップできました。これからも頑張ってください。新曲が出たら連絡くださいね」
女性は突き抜けた青空のようににっこりと微笑んだ。
雲外蒼天。僕はムーサの導きを感じた。
女性とのやり取りを見ていた他の客も、楽曲データを購入したいと言い始め、レイターは『夏の日の雲』を売り続けていた。
「ヌイー。結構儲かったゾ。流石、あんたプロだ」
嬉しそうに通信機のチャージ額を僕に見せた。
「お金はレイターにあげるよ」
「えっ?」
「それでギター買いなよ」
「ありがとうございます」
レイターは礼儀正しくお辞儀をした。
ギターケースの中に一万リル札があった。通りすがりの誰かが投げ入れてくれたものだ。
僕に? レイターに? 二人に? そんなことはどうでもいい。
ただ、今、このライヴの時間に一万リルの価値を見出した人がいた。その事実が僕を幸せにした。
僕の人生のピークは、今、なんじゃないだろうか。
ムーサの愛がくっきりと感じられる。
ああそうか、”人生のピーク” と言う言葉が良くないんだ。
その後の人生が否定されたような気持ちになるから。
子どもの頃から憧れていたプロになり、絶頂の後に事務所を辞めて、僕は絶望のどん底に落ちた。
けれど、そのおかげで音階暗号譜と出会えた。
人生は波のようだ。ピークは何度でもやってくる。
こんなはずじゃなかった、という挫折感を今なら手放せるんじゃないだろうか。
久しぶりの路上ライヴは、僕の人生に新たな意味を教えてくれた。
*
レイターは結局ギターを買わないで、相変わらず僕の部屋へギターを借りにくる。ライヴで儲けたお金は、宇宙船を買うための貯金に回したらしい。
「ヌイはレイターに甘すぎる」
とバルダンは怒っているけれど、まあ、いいや。
僕らの部屋でギターを鳴らすレイターに聞いた。
「お前さん、路上ライヴやったことあるのかい?」
「俺じゃなくてお袋がね。すごかったんだぜ。女神の降臨だよ。聴いてる人はみんな虜になっちゃってさ。俺はそのライブを手伝ってたんだ」
レイターはうっとりとした表情をした。どうりで仕切りが手慣れていた訳だ。
そこへバルダンが突っかかった。
「お前の『ギミラブ』、どんな美女が歌っているのかと勘違いしたじゃねーか」
レイターが照れた様に笑った。
「へへ、あの曲、俺が歌うと姐さんが喜んだんだよね」
「姐さん?」
「俺の知り合い」
「紹介しろ」
「やなこった……」
と言った後、レイターが突然黙った。何かを思い出したようだった。
「お前、ホームシックか?」
「うるせぇ」
バルダンに蹴りを入れようとしたレイターは逆に蹴り返され、部屋の端まで飛んでいた。
「くっそー」
「わはは、ガキはもっと訓練しろ。一に練習、二に訓練だ」
と言いながらバルダンは部屋を出て行った。
「大丈夫かい?」
「ワザと蹴られてやったんだ」
ほんとにこいつは負けず嫌いの子どもだ。
そんなレイターに僕は聞きたいことがあった。 最終回へ続く
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
イラストのマガジン
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