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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第五話 掃き溜めに姫君(上巻)
・<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン
・<ハイスクール編>マガジン
・第三話「秘密の音楽室」と第四話「家出してから帰ります」のこと
学校帰り、ロッキーはレイターに連れられて、月の御屋敷を訪れた。
お屋敷の横はいつも通っている。だけど、門の中に入るのは初めてだった。
「すっげ~、広いんだな」
オレは感嘆の声を上げた。さすがは名門将軍家だ。
「ああ、困ったもんだ」
「困る?」
「俺以外、みんな車だからいいけどさぁ。歩くのかったるいぜ」
レイターの言う意味はよくわかった。
門からお屋敷までずいぶん遠い。
けど、森を抜けてきれいに手入れされた庭園の横を歩いていくと、かったるい、というより気持ちいい。
「毎日、ただで散歩できると思えばいいじゃん。中央公園の庭園なんて金とるんだぜ」
「そうか、ここ公開して金をとればいいんだ」
レイターの目がキラリと輝いた。そういうつもりで言った訳じゃないんだけどな。
レイターは歩きながら、思わぬことを口にした。
「花の手入れも結構大変なんだぜ。そこのブロック、先週、害虫が出て俺が全部手で取ったんだ」
「お前が?」
「ああ」
こいつ居候だから、いろいろ手伝わさせられているんだろうか。
と、突然、
「フローラ~!」
レイターが大きな声で名前を呼んで手を振った。
花畑のベンチに少女が座っていた。すっげーかわいい。
少女はにっこり笑うと軽く手をあげて応えた。
「お前、あんなかわいい娘と知り合いかよ。うらやましすぎるぞ」
「いいだろぉ」
「あの子、誰だい?」
「この城の姫君だ。アーサーの妹さ」
天才少年に妹がいるという話は、聞いたことがある。
確か身体が弱くてずっと自宅で療養しているはず。でも、その少女は元気そうに見えた。
「後で、俺の部屋に来いよっ」
レイターの誘いに、少女はうなづいた。
「お前、あの娘にも手を出したのか?」
「あん?」
レイターははぐらかすような顔をした。
「おい、答えろよ」
「難しいこと聞くなっ」
そう言ってあいつは、オレの頭をはたいた。
は? 何なんだこいつの反応は。
女と見れば、ナンパして、朝帰りしてるくせに。
やっぱ居候だから、気を使ってるのか。相手は姫君だもんな。
ようやく玄関に着いた。
近くで見ると、ますます威厳のある建物だ。
月への移住が始まった数世紀前に、トライムス家が地球で住んでいた古城をそのまま移設した、って話は有名だ。
レイターは正面玄関を素通りすると、裏口から屋敷の中へ入った。
「玄関から入るの、面倒くせぇんだ」
食べ物のいい香りがしていた。厨房につながっている。
レイターは手を洗うと、テーブルの上にあったポテトフライをキッチンペーパーにくるんだ。
「レイター! 何してんだい!」」
年輩の女性が大声で怒鳴った。
「汚い手でさわらないでおくれ!」
「くそばばあ、手は洗ったよ」
「また、つまみ食いかい」
「客が来てんだよ」
「客?」
「お、おじゃまします」
オレはあっけにとられながら頭を下げた。女性はジロリと俺をにらんだ。こ、怖い。
「レイターのお友達かい」
「ロッキー・スコットと言います」
とりあえず自己紹介した。とにかく迫力のある人だ。
「この子とつきあってるとバカがうつるよ。フン」
それだけ言うと女性は、厨房の奥へと引っ込んでしまった。
「あっかんべ~」
その女性に向けてレイターは舌をだした。こいつ、まるで子供だ。
レイターの部屋に入って、びっくりした。
床に足の踏み場がない。オレの部屋もほめられたもんじゃないが、ここまでひどくはない。本やら服やらゲームやらプラモデルやらとにかく散らかっている。
レイターは、ベッドの前の床にあったものを足で押しやり、空間を作るとそこにフライドポテトを置いて座った。
「最新版だぜ、ほれ」
レイターが家庭用ゲームソフトのケースを差し出した。
きょうは発売前のゲームで遊ぶために、このお屋敷へきたのだ。 中巻へ続く
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