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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  第六話 父の出張(7)

レイターはティリーの故郷アンタレスを初めて訪れた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① (1)(2)(3)(4)(5)(6
<恋愛編>のマガジン

「わたしの部屋はここよ」
 と自室のドアを開けた瞬間、後悔した。エースの視線が突き刺さる。

正面レース

「すげぇ部屋だな」
 レイターがあきれた声をだした。
 天井含めて『無敗の貴公子』のムービングポスターで埋め尽くされている。エース命と書かれたグッズの数々が整然と並んでいるのは、わたしがアンタレスを離れた時のままだ。慌ててドアを閉めた。
「リビングで地元のレースチャンネルでも見よっか」

 我が家のリビングには半球壁面モニターが格納されている。床から天井まで広げるとフェニックス号の4Dシステムほどではないけれど、没入感はある。ソファーに二人で並んで座った。レースチャンネルに合わせると懐かしさがこみ上げた。
「いつも、こうやってS1レースを観てたの」
「あんた、楽しそうだな」

 リビングとつながっているキッチンからママが顔をのぞかせた。
「ティリーが騒がしくて大変だったのよね」
「しょうがないじゃない」
 ここで推しのエースを応援していたのだ。
「ふぅ~ん」

n23ゆるシャツにやり横目ネクタイなし

 レイターが横目でわたしを見た。何に騒いでいたのかわかっている顔だ。今更隠すことでもないけれど。
 アンタレス近くのマイナーなコースで学生選手権が開催されていた。
「ふむ、この小惑星の配列は、追い抜くのにテクがいるな。荒れるぞ」

 宇宙船お宅の細かい解説を聞いていると自然と口元が緩んでしまう。うちにレイターがいて一緒に宇宙船レースを観てるなんて、新鮮だ。

 学生たちのレースはレイターの言う通り、激突、故障、棄権が相次ぎ、目が離せない展開だった。S1とは違う荒削りなレースを楽しんでいるうちに、気が付くと夕方になっていた。

 懐かしい匂いが漂ってきた。ママのスープの香りだ。
 そして、最大の難関であるパパが帰宅した。
「パパ、お帰り」
「おお、ティリー、帰ってきたか」
 機嫌が良さそうなのは一瞬だった。
「お邪魔してます」
 レイターが会釈すると、空気が急速冷凍された。
「フン、本当に邪魔だ。帰ってくるのはティリーだけでよかったのに」

「ティリー、ちょっと手伝って」
 とキッチンのママに呼ばれる。レイターもわたしの後についてきた。
「俺、手伝います」
「あら、お客さんはソファーに座ってて」
 ママは丁寧に断ったのだけど、レイターがついて来た理由はよくわかる。パパと二人でリビングに座っているのは拷問だ。
「ママ、レイターに手伝ってもらったら楽よ」
「そう? じゃあ、申し訳ないけれど、そのドレッシングをかき混ぜてほしいの」
「任せてください」

 レイターの手慣れた様子にママが目を見張った。
「ティリーよりよっぽどお上手ね」
「だって、レイターは調理師免許持ってるのよ。フェニックス号にはうちと同じ火のコンロがあるんだから」

泡立て

「便利で理想的な彼氏さんだこと。うらやましいわ」
 このレイターのよさがパパにもわかってもらえるといいのだけれど。

 夕食の席で、さっきまでおしゃべりだったレイターが黙った。ここは、わたしにとってホームでもレイターにとってはアウェーだ。
 とにかく、レイターの長所をアピールしなくては。料理が上手、操縦が上手、スポーツ万能……。違う、もっと内面の良さを伝えなくちゃ、と考えて思考が止まる。女好きでだらしなくて、お金にがめつい、欠点ばかり次々と浮かんできた。

「今期もクロノスの業績はいいようだな」
 パパは仕事の話を切り出した。
「宇宙船需要は拡大してるし、エースが社長になって社内の雰囲気も若返ってるのよ」
「ティリーはちゃんと会社に貢献できているのか?」
「もちろんよ。もう、後輩に指導だってしてるんだから」
「ほう、営業成績はどうなんだ?」
「どう、って普通だけど」
「数字で説明してみてくれ」
 恋愛の話には持っていかせないぞ、という強い意思を感じる。  

 仕事の話が終わると、パパは自分が大好きな政治談義を始めた。
「連邦評議会にも困ったもんだ。統治する能力が弱っとる。連邦軍への軍事費の増額が簡単に決まるのはおかしいじゃないか。君は、そうは思わんかね?」

ティリー父ゆるシャツむ逆

 初めてレイターに話を振った。
 パパのことだ、レイターを試しているに違いない。昔から、わたしのボーイフレンドが家に来るとわざと難しい話をする。

「アリオロンの好戦派が権力持ったから、しょうがねぇんじゃねぇの」
 さらりと答えたレイターにパパが意外だという顔をした。パパはレイターがハイスクール中退の飛ばし屋と聞いて、侮っていたに違いない。偏見だしレイターに失礼だ。

「文民統制がちゃんととれるのか心配なんだ。軍部が暴走したらどうする」
「戦争やりたがってんのは、現場知らねぇお偉いさん方だろ」
「そうか、君は将軍家とつながりがあるんだったな。一体、どういう関係なんだ?」 

 ドキリとした。パパには言えないけれど、レイターは将軍家直属の特命諜報部員なのだ。    (8)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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