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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(10)
ハミルトンは息子のように感じてしまうレイターから距離を置くようにしてきた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)
だが、今日の言葉は俺には強烈すぎた。
「俺はあんたを尊敬してるんだ」
レイターの子どものような高い声が身体中に染み渡る。俺がずっと欲していた言葉だった。
「お前が俺の息子だったら…」
見せないように封じ込めてきた思いが、幸福感に押し出され言葉になって噴き出した。
レイターが俺の息子だったら。
俺は、俺の持てる物全てをこいつに捧げてやれるのに。
レイターは『銀河一の操縦士』だった、という名前も知らない父親を敬愛している。
もし、レイターが俺の息子だったら、俺は、立派な尊敬される父親になれたのだろうか。
いや、そんなことを考えた時点で、俺は俺の実の息子を裏切っているのだ。
至福な暖かさは一瞬だった。俺は深い海に突き落とされたような罪悪感に襲われた。
* *
ハミルトン少尉の遺体は見つからなかった。
不幸な接触だった。
その日、銀河連邦にもアリオロン同盟にも属しない無管轄の磁場宙域ワートランドへ、戦闘機部隊の一部がステルス訓練に出掛けた。
ハミルトン少尉をチーフとするレイターら五機。
「アーサー、どうだ? 逃げのハミルトンがチーフだからなぁ。あいつら、こっちでリアルタイム監視できないからってさぼってるんじゃないか?」
アレック艦長が冗談めかして私に話しかけた。
私はアレクサンドリア号で、訓練の監視と分析を担当していた。
磁場が深く、現地の部隊とリアルタイムでは連絡がつかなかった。
状況を把握できるのは、十五分遅れで分析席に届く監視衛星の映像と、航行ログだけだった。
映像をチェックしていた私は驚いた。
アリオロン機が映っていた。コンドルのエンブレム。
考えられることはただ一つ。
訓練中のレイターたちが、ハゲタカ大尉率いるコンドル軍団とワートランド宙域で、鉢合わせをしたということだ。
「アレック艦長、緊急事態です!」
「どうした、アーサー?」
「コンドル軍団と接触した模様」
「何だと!」
レーダーの効かない磁場宙域で、訓練中の流れ弾が敵機に被弾。そのままドッグファイトに突入していた。
「モリノ! 応援部隊を出せ」
艦内は一気に騒然とした。
私は見たものすべてを記憶する。目視で敵機の数を確認する。コンドル軍団はハゲタカ大尉を含めて三十機。六対一か。
”逃げのハミルトン”は逃げなかった。その場でハゲタカの猛攻から味方を守っていた。
*
アレクサンドリア号へ戻ってきたのは、放心状態のレイターだけだった。
応援部隊が到着した時には、レイター以外、味方は全滅し、敵のコンドル軍団は引き上げた後だった。
着艦するとあいつは泣きじゃくりながら報告した。
「ハゲタカ大尉をハミルトンが撃墜した」と。
おかしい。
分析席で私とアレック艦長は、遅れて届く戦闘映像を見ていた。
ハゲタカ大尉を撃ち落としたのはレイターだ。
その直前に、ハミルトン少尉はレイターをかばって死んだ。
ハゲタカ大尉がレイターに向けて撃ったミサイルに、少尉は戦闘機ごと突っ込み盾となったのだ。
ハミルトン少尉が死ななければ、レイターが死んでいた。
映像は続く、ハミルトン機が爆発した後、レイターとハゲタカ大尉は一対一で向き合った。敵はまだ十機近く残っている。
一体、何が起きたのだろう。
「おい、アーサー、なんだこのレイターの操縦は?」
「わかりません」
加速も旋回も、私が知っているレイターの操縦ではなかった。
ハミルトン少尉が憑依したのか。
ハゲタカ対不死鳥の戦いに私は見入った。 (11)へ続く
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