
銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(6)
・銀河フェニックス物語 総目次
・裏将軍編のマガジン
・最後の最後は逃げるが勝ち(1)(2)(3)(4)(5)
* *
御台所とのバトルを制したノーザンダはスタート地点で突風教習船の到着を待っていた。
今、対戦したギャラクシー・フェニックスの副将、御台所は速かった。
技術もあるが、それ以上に攻め込む度胸と切れ味がとにかく素晴らしい。
だが、空間気流の使い方が甘かった。
気流を突っ切って断ち切ったのはすごいが、制するには技と経験が足りなかった。
次は無敗を誇る裏将軍だ。
自分の代で、長年続いてきた我がウエスタンクロスを終わらせるわけにはいかない。先代たちに示しがつかない。プレッシャーはあるが、裏将軍とやれるのは楽しみだ。
正体不明の裏将軍、年齢性別不明。御台所とつきあっているというから男という説が主流だが、身体が小さく女かもしれない。プロのレーサーとか、戦闘機乗りとか数々の噂が飛んでいる。
わかっていることは、自分とは違い、天才的な操縦技術の持ち主ということだ。動画を見ればわかる。S1でも通用する腕だ。
だが、今回、自分にとって勝利のポイントが二つある。
一つは、地元ウエスタン小惑星帯でバトルが行えること。ここは自分たちの庭だ。目をつぶっていても操縦できる。
もう一つは、裏将軍の調子が悪いこと。
この一か月、裏将軍の飛ばしが荒い。以前のような繊細さが欠けている。
何があったか知らないが、自分が勝利する確率は五割。
結成以来、快進撃を続けるギャラクシーフェニックスは、旗の重みをわかっていない。旗を守ることで鍛えられてきた強さを、自分が彼らに教えてやる。
モニターに突風教習船が映った。
裏将軍のお出ましだ。
どういうことだ?
赤い不死鳥のヘルメットを着けた裏将軍が、これまで一度も使ったことのない左教官席に座っている。
一週間前のバトルは右の操縦席だった。それからわざわざ繋ぎ直したということか。かなりのリスクだ。それでもやってきたということは、秘策があるのか。
考えても仕方ない。受けて立つ。裏将軍がどんな手でこようと、自分は自分の飛ばしをするのみ。
さあ、バトルが始まる。集中しろ。
見慣れた景色。それでもこの瞬間は緊張する。
突風教習船が隣に並び、スタートシグナルが消えた。
いい形でスタートが切れた。
飛び出して、すぐにわかった。
裏将軍は左教官席に慣れていない。操縦に迷いがある。ならば先行していくまで。
裏将軍は自分の後ろにぴったりとくっつき、親ガモの後をついて歩く子ガモのように自分の飛ばしをなぞっている。嫌な感じだ。
小惑星NP15が近づく。
最初に立ちはだかる間欠泉小惑星。刻々と変化する気体の量と向きを読んで、空間気流を見極める。これまでに何千回と繰り返してきた。
*
自分は免許を取るとすぐに、憧れだったウエスタンクロスに入った。
あの頃、自分はまるで気流が読めなかった。間欠泉小惑星の近くを通ると機体が翻弄された。先輩たちにくっついて、安定して飛ばす技を盗んだ。
老舗の飛ばし屋チームは層が厚い。個人個人がいろいろな対応を編み出していた。食事に行って飲みに行って、話を聞いた。食事代は自分が払った。
恥ずかしかったが、後から入ってきた後輩にも頭を下げて教えを請うた。
嫌がられても情報を集めて分析し、ひたすらに飛ばしを繰り返す。エネルギースタンドで稼いだバイト代はすべて飛ばしにつぎ込み、誰よりも飛んだ。遠征も必ず見学した。
学校もやめた。
結果はなかなかでなかった。そんな自分を、家族も仲間も「愚直の一文字目」と呼んでいた。
何と言われようと、自分は今より上手く船を飛ばせるようになりたいのだ。
生まれつきの飛ばしのセンスはなくとも、何百回、何千回と飛ぶ中で血肉化していく。その熱量だけは誰にも負けない。
間欠泉小惑星の噴出は日々変わる。同じ量や向きに遭遇することはほぼない。だが、経験の積み重ねがとっさの対応を生み出していく。
少しずつ、チーム内の順位が上がった。次第にレギュラーに入れてもらえるようになり、先発を任された。
その頃には仲間たちは自分を「愚直の一文字目」とは呼ばなくなり、「愚直なまでの努力」という褒め言葉で称えた。
操縦のための努力は自分にとって苦ではない。
さらに鍛錬を続け、総長になった。後輩を育てた。自分が教わったことはすべて惜しむことなく開示した。
時には、親切に教えた後輩に抜かれた。そんな俺を見て「愚か」と言いだす輩もいた。
だが、チームのレベルが上がることが、自分自身を向上させる。
これこそが老舗の力だ。
裏将軍にない物を、自分は手にしている。
*
裏将軍が狙っている作戦が見えてきた。
先代から引き継ぎ、身体に染みこませた、この自分の飛ばしをそのままトレースして、空間気流をやり過ごそうと考えている。
前を飛ぶものを風よけにする。賢いやり方だ。
間欠泉小惑星NP15の噴出状態を読む。先ほどの御台所とのバトル時と状況は変わっている。
右からすり抜けながらノズル噴射する。
裏将軍の思い通りにはさせない、空間気流の中、機体をわざと傾けて突っ切る。
悪いな裏将軍。この角度は自分の通った後、気流が渦を巻く。後続はその抵抗をもろに受ける。接近が裏目に出る。
自分が先に空間気流を通り抜けた、その時。 (7)へ続く
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
