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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(22)
銀河をも崩壊させる亜空間破壊兵器の開発が本格化しようとしていることにアーサーは懸念を感じていた
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」
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<少年編>マガジン
連邦内において亜空間破壊兵器の開発は秘密裡に行われている。知っているのは統治院と連邦軍の一部だけだ。
軍の研究所長が将軍家に直訴に来た。
「士官学校を卒業後、ご子息をぜひ、研究所に配属させていただきたい。アーサー殿下なら亜空間破壊兵器を完成させられます」
所長は僕の能力を欲しがっていた。僕も研究職に興味があった。
だが、父上は僕の身柄をアレック艦長に預けた。人類の手に余る兵器製造に高知能民族インタレスの知性を関わらせるのは危険だと。
とはいえ、アリオロンが先に亜空間破壊兵器を開発し手にした場合、連邦も同じ物を持たざるを得ない。抑止力だ。
インタレス人の末裔である僕と妹のフローラが研究所に呼ばれる日は遠くないかもしれない。
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この破壊兵器について自宅にいたころフローラと議論をした。人類の持つ技術で実現可能かどうか。
「自らが滅んでもよければ可能でしょうね」
静かに語る妹と僕は同意見だった。
星間物質をエネルギーとして亜空間に引き込み、人為的に時空震を引き起こして空間ごと消滅させる。星系外航行用の亜空間フライトの技術を応用すれば時空震を引き起こすことは理論的に可能だ。だが、制御ができない。時空の裂け目が拡大し続ければ、敵だけでなく自らの存在も消える。
「いずれにせよ破壊兵器を実現させる鍵は暗黒星雲だ」
「お兄さまのおっしゃる通りですわ。エネルギー源となる星間物質は高密度でなければなりません。それが暗黒星雲には普通に存在していますもの」
*
ハヤタマ殿下から頂いたデジタルアートを見つめる。
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アリオロンとの境界に位置する鮫ノ口暗黒星雲は今後さらに重要度を増すことになるだろう。フチチ十四世は暗黒星雲における敵の動きについて連邦とは別ルートで情報を持っている。機密を共有して検討する時期が来たのだ。父上に相談して進めなくては。
鮮やかな緑のモチーフが僕の意識の奥に語り掛ける。ここにフチチが存在していると。
僕は女王に宛てて返信を書いた。統治者の器について、彼女から直接尋ねられた時には、はぐらかすことしかできなかった。けれど、今は伝えたいという衝動に突き動かされている。
『ハヤタマ殿下からご自身でお描きになったという素晴らしき絵画をいただきました。御礼申し上げます。殿下は芸術の才能に恵まれ、美意識という指標をお持ちです。さらに、あるべき姿を読み取る力と人々の心の深いところを動かす才を備えておられます。実務に長けた者が殿下を支えれば、動乱の世でも賢君として治めることができますことでしょう。殿下には貴台のこれからの治世を見て学ぶ時間がございます。案ずることはございません。私も父の背中を見て精進して参ります。今後とも連邦軍はフチチとともに歩んで参ります。ご協力の程よろしくお願いいたします』
ハヤタマ殿下のために、震えながら直訴をした少年の姿が浮かぶ。そして考える。純粋に僕のために動いてくれる人間というのは、果たしているだろうか。
*
捕虜としたアリオロン宇宙軍のグリロット中尉の身柄と敵機を中継基地へ運ぶため、アレクサンドリア号は前線を離れることになった。
グリロット中尉の経歴をあらためて見る。工学系の大学を卒業後、入隊。最初の配属はアリオロン軍の研究所だ。その彼がなぜ、暗黒星雲にいたのか。彼の機体が積んでいるデータが入手できれば、アリオロンの技術動向が解析ができるはずだ。
フチチはもう肉眼では見えない。
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すべてを飲み込むような鮫ノ口暗黒星雲だけが、漆黒の闇の中に浮かび上がっていた。 (おしまい)
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