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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(4) 大きなネズミは小さなネズミ

戦艦アレクサンドリア号の密航者はレイター・フェニックスと名乗る少年だった。
銀河フェニックス物語 総目次
「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版 (1)(2)(3
<少年編>のマガジン

「まあいい。お前、どうしてこのふねに密航した?」

若アレック後ろ目真面目アレック逆

「宇宙へ行きたかったんだ。たまたま乗ったふねがこれだった」
「たまたまねぇ」
「頼む、お願いだ。このふねで俺を雇ってくれ」
「お前、このふねが何の船かわかってるか」
「連邦軍の軍艦」
「行き先知ってるか?」
「多分、辺境の前線行き」
「よくわかってるじゃないか。遊びに行くわけじゃないんだ」
「お願いします! 何でもしますから、このふねに置いてください」

12正面Tシャツ情けない

 切羽詰まった声だった。

「家出の手伝いはできん。このふねは四年はソラ系に戻らないんだぞ」
 彼は目を伏せて小さな声で言った。
「……父も母も死にました。帰る家はないんです」
 艦長が一瞬言葉に詰まった。アレック大佐は戦災孤児で天涯孤独な人生を送ってきた。
「生きて帰れるかどうかもわからん、と言っとるんだ」
「構いません。お願いします!」
 レイターという少年が必死なのは伝わる。だが、このふねに民間人を乗せておくわけにはいかない。

「お前、いくつだ」
「十二です」
 驚いた。僕と同じ年だった。

12初対面

「ほぉ、アーサーと同じ年には見えんな」
 アレック艦長が僕と彼を見比べて笑った。まさか?

「ザブリート料理長を呼べ」
 真面目なモリノ副長が眉間にしわをよせながらザブリートさんに連絡を入れた。

横顔前目む

 信じられない。艦長は彼をふねに置いておくつもりだ。

 ザブリートさんが艦長室に入ってきた。
「おい、ザブ。調理場に人が足りないって言ってただろ」
「へえ」
「ネズミでもいいか?」
「この小僧がつまみ食いのネズミですか」

ザブリート@2む

「レイター・フェニックスです。つまみ食いしてすみませんでした。でも、とってもおいしかったです」
 レイターが素直に頭を下げた。「おいしかった」と言われザブリートさんが満更でもない顔をしている。

「お前、料理作れるか?」
「自分で食べるくらいは作れます」
「ま、いっか。ちょうど猫の手でもネズミの手でも借りたいところだ」
 密航者が幼い子供だったことで艦内の緊張感が急速に消えている。

「トライムス少尉」
「はい」
 アレック艦長が僕を呼んだ。嫌な予感がした。
「お前の部屋にこいつを案内しろ」
 艦長の命令は絶対だ。
「わかりました」
 僕はレイターを連れて艦長の部屋を出た。

「あんた、俺と同い年って、随分老けてんな」
 妙に慣れ慣れしい態度だ。艦長らに対する態度とは手のひらを返したように違う。
「君が幼いんじゃないのか。私はアーサー・トライムスだ」

「知ってる。将軍家のお坊ちゃんだろ」
 僕はムっとする感情が湧き上がるのを抑え込んだ。彼の言う通り、僕は銀河連邦軍将軍家で継承権第一位の嫡男だ。

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 このふねの乗組員が僕のことを『将軍家の坊ちゃん』と呼んでいることは知っている。事実でもあり、腹を立てても仕方がないと思っているが、面と向かって言われていい気分な訳がない。 

「俺、レイター・フェニックス。将軍家だろうが何だろうが、さっきはよくも蹴ってくれたな、いつか借りは必ず返す」
 僕はどう返事をしていいかわからなかった。
 他人の顔に人差し指を突きつけながら話す人物に会ったのは、生まれて初めてのことだった。    (5)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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