
銀河フェニックス物語 <ハイスクール編>火事の日の約束(1)
・銀河フェニックス物語 総目次
・<ハイスクール編>マガジン
・<出会い編>第四十一話「パスワードはお忘れなく」まとめ読み版① ②
ハイスクールからの帰り道。オレとレイターは住宅街の抜け道を歩いていた。
レイターが眉間にしわを寄せた。
「なあ、ロッキー。なんか焦げ臭くねぇか」
確かに臭うぞ。
「レイター、見ろ」
向かいに見える家から煙りが出てる。火事だ!
子どもの泣き声が聞こえた。
「子どもが中にいる」
とレイターが走り出した。
まじかよ。
玄関のドアには鍵がかかっていた。
裏手に回る。レイターがガラス戸を蹴破り、家の中へ飛び込む。オレも後に続いた。
「あんたはついてくんな!」
そう言われてもオレだけ外で突っ立っているわけにはいかない。
室内には煙がすでに充満していた。目が痛くて開けられない。
「来るなっつったろが! そこから動くな」
動け、と言われても動けない状況だ。
レイターの奴、奥へどんどんと入っていく。あいつ大丈夫か。
二階にはもう火が回ってる。
その時、
「ロッキー!」
頭上からレイターの声が聞こえた。
煙の向こうにレイターの影が見えた。二階との吹き抜けだ。小さな二歳ぐらいの女の子を抱えている。
二人のすぐそばまで火の手が迫っていた。
「こわいよぉ」
女の子が大声でわんわん泣いている。
「頼む、絶対に受け止めろ」
レイターがカーテンで滑り台を作り、子どもをオレに向けて滑らせた。うわっつ。オレはびっくりしながら女の子をキャッチした。
ゴオオオォ…
イヤな音がする。や、やばいぞ。オレは女の子を抱えて道路へ飛び出した。
外には近所の人たちが集まり始めていた。
ウウウウゥゥゥウウウ…。
消防車のサイレンが近づいてくる。
「おい、君、大丈夫か?」
大人がオレに声をかけた。
「え、ええ」
「子供は無事か?」
「は、はい」
オレの腕の中の女の子がまた大声を上げて泣き始めた。
「おにいちゃん! おにいちゃん!」
「もう大丈夫だよ」
女の子はしがみついたまま恐怖からかオレから離れようとしない。巻き毛のかわいい子だった。
近くにいたのか、マスコミもやってきた。オレにマイクとカメラが向けられた。
「あなたが女の子を助けたんですか?」
「え? 」
「え~ん。おにいちゃ~ん」
否定しようとするオレの声をかき消すかのように、女の子が泣き出した。
「お手柄ですね」
「い、いえ。そんなことないです」
オレが否定しているのを女性リポーターは謙遜と受け取ったらしい。
「おにいちゃん。ありがとう」
女の子がオレに抱きついた。その様子がカメラでしっかりと映されてしまった。
この子を火の中から助けたのはレイターだ。外へ連れ出したのはオレ。わずか二メートル運んだだけだが、女の子はオレが救い出したと勘違いしているようだ。
女性リポーターの声が聞こえる。
「自分の危険を省みずにこの火の中へ飛び込んだ若者の勇気には感心させられます」
オレは、「オレじゃない」って否定する機会を逸してしまった。
消火作業が本格化し、家の周りに規制線が引かれた。
野次馬は外へ出されたが、オレは消防車の隣で女の子を抱っこしながら家族と連絡が取れるのを待っていた。焦げ臭いにおいが漂ってる。
レイターの奴、どこへ行ったんだろう。あいつのことだから心配はしてないが。
グワッシャ。
家の中が崩れ落ちる音がした。
オレはあわてて振り向いた。ま、まさかあいつ残ってないよな。 (2)へ続く
裏話や雑談を掲載した公式ツイッターはこちら
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
