銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第一話(1) 転校生は将軍家?!
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・<出会い編>第二十九話「オレとあいつと彼女の記憶」
あいつと初めて会ったのは、ハイスクール一年生のまだ暑い季節だった。
長い夏休みが空けて、久しぶりの学校はかったるかった。教室の一番後ろの席からぼーっと空を見上げると、青い地球がぽっかり浮かんでいた。
オレのクラスに編入してきたあいつは、たまたま空いていたオレの隣の席に座った。
「よろしくな」
笑顔を見せるあいつに、オレも一応名乗ってあいさつした。
「オレはロッキー・スコットだ。よろしく」
あいつのことは転校してくる前から噂になってた。
なんと言ってもトライムス将軍家の人間なのだ。トライムス将軍家といえば、代々当主が銀河連邦軍の最高指揮官を務めるという、連邦中に響きわたる名士。
この学校から歩いて行けるところに居宅として『月の御屋敷』と呼ばれるお城を構えている。
トライムス家にはその跡取りに、オレと同い年でアーサーっていう名の超天才少年がいる。
その天才少年と同い年のみなしごを先日将軍が引き取った、ってことは地元の誰もが知ってる話だった。
だからそいつが、うちの公立ハイスクールへ転校してくると聞いて、どんな奴なのか、みんな興味を持っていた。
*
教師に連れられて、教室へ入ってきたあいつを初めて見た時、意外な感じがした。将軍家って言葉に張り付いている、威厳みたいなものがまるでない。
背が低くて細っこくて、やたらと幼く見える。もしかして飛び級してるのか?
「俺、レイター・フェニックス」
しゃべると頭が良さそうには見えなかった。声変わりしてない高い声。
「こんなかわいい女子のみんながいてくれると、学校も楽しそうだな。一つよろしく頼むぜ」
と、まあとにかく最初から、レイターは女共に愛想が良かった。
*
「おい、転校生。後で裏山へ来い」
休み時間にスクールギャングのボス、キーレンがレイターを呼びつけた。
「あん?」
「将軍家だか知らねぇが、でかい顔はさせねぇぜ」
それだけ言うとキーレンは、巨体を揺らして部屋から出ていった。
レイターがオレに聞いた。
「歓迎会やってくれんのかな?」
こいつは馬鹿かよ。どう見たってそういう雰囲気じゃないだろうが。
「あいつはキーレンって言って、この学校の番長さ」
「番長?」
「スクールギャングだよ。マフィアの下部組織っつうか、不良の元締めっつうか、とにかく学校で喧嘩が一番強いんだ。行っても殴られるし、行かなくても殴られる。どっちかって言うと、素直に行った方が被害が少ない」
「ふぅ~ん。楽しそうだな。行くの止めてみよ」
レイターはうれしそうな顔をした。
「おまえ、人の話ちゃんと聞いてるか?」
オレは心配になった。
キーレンはガキの頃から体がでかくていじめっこだった。
腕っぷしが強くて、今年入学すると同時に、スクールギャングの前のボスを叩きのめして番長の座を奪い取った。
さらに近隣の学校も次々と傘下に治めて、あいつに楯突ける奴はこの周辺には誰もいない。
キーレンは、自分が一番強いって示しておきたいから、転校生が来るととりあえず一発は殴らないと気が済まない。
通過儀礼みたいなもんだから、ま、素直に殴られておくってのが賢いやり方だ。
「とりあえず、授業終わったら裏山へ行けよ」
オレは親切に忠告した。
「やだよん」
「一発殴られるだけですむ」
「やだよん」
「どのみち、痛い目に遭うぜ」
「どうかな?」
レイターはくすりと楽しげに笑った。 (2)へ続く
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