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銀河フェニックス物語<少年編> 腕前を知りたくて(下)
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・<少年編>腕前を知りたくて (上) (中)
正面衝突を避けてモリノ副長が一瞬引く。
レイターはその隙を逃さなかった。すれ違いざまに機体をくるりと宙返りさせる。
「ロックオン」
「何?!」
副長が振り切って逃げようと加速するが、レイターは完全に捉えていた。
ダンッツ
一発だけ発射した模擬弾が副長のエンジン部に命中した。
「いただきっ」
僕たちの勝利だ。僕たち? 僕は何もしていない。
「アーサー、腕を上げたな。捨て身の攻撃か」
副長が感心した声で言った。「今の操縦はすべてレイターです」と、報告しようとした時、
「さすが、将軍の跡取りは違うぜ」
とレイターが先に応えた。あいつ、黙っていろという意味か。
僕は驚いていた。
彼がここまで操縦できるとは思っていなかった。モリノ副長を撃ち落すことを僕はできるだろうか。しかも、一発で。
レイターの腕は、このまま実戦に出ても通用するレベルだ。ダグ・グレゴリーの元でかなり本格的に船に乗っていたに違いない。
『銀河一の操縦士』というのは、彼にとって子どもの夢ではなく目の前の具体的な目標だということだ。
*
「どうだった?」
アレキサンドリア号に戻ったモリノ副長は、艦長室でアレック隊長に聞かれ即答した。
「使えますね」
「だろうな。あのアーサーが腕を見てみたいと言うのだからな」
モリノ副長は気づいていた。あれは、アーサーの飛ばしではない。ひじょうに感覚的な操縦だった。
アレック隊長は首を傾げた。
「レイターの奴、一体どこで操縦を覚えたんだ? この前シミュレーターを動かした時にはゲーセンだと言っとったが」
モリノ副長は不安を覚えながら自分の意見を述べた。
「違いますね。あの操縦は、間違いなく実機に乗っています。それも、民間機ではない船に」
「ふむ。ま、いい。使えるものは使い倒すのが俺の方針だからな」
アレック隊長は窓の外の星空を見ながら不敵に笑った。
*
僕と一緒に部屋に戻ったレイターは鼻歌を歌っている。宇宙船、それも戦闘機を操縦できて満足しているのだろう。僕は聞いてみた。
「君はいつから船を操縦しているんだ?」
「あん? 九つん時だぜ」
「ダグ・グレゴリーに操縦を教わったのか?」
「あの親父は自分で操縦なんてしねぇよ。俺の師匠は『超速』カーペンターさ」
その名前に驚いた。
「十三年前に引退した元S1レーサーか」
バラドレック・カーペンター。僕たちが生まれる前にS1の記録を次々と塗り替えた伝説のレーサーだ。銀河最速の『超速』と呼ばれていた。だが飛ばしにムラがあって、総合優勝は一回しかしていない。
そして、飲酒操縦で人身事故を起こし、S1界から永久追放された。
「カーペンターはダグのお抱えパイロットやってたんだ」
「それでS1のレーシング機にも乗ったことがあるわけか」
「当たり。あと、実弾使ったバトルはマフィアの抗争でしょっちゅうやってたしな。無駄弾なんて撃ってみろ、その分飯抜きなんだぜ」
レイターが一発必中にこだわった理由が飲み込めた。士官学校を出たばかりの僕よりも、彼は実戦の経験を積んでいるということだ。
*
その晩、僕はアレック隊長の部屋にレイターと共に呼ばれた。隊長の隣にモリノ副長が立っていた。
アレック隊長が笑顔で声をかける。
「レイター、お前、なかなか操縦が上手いらしいじゃないか」
「えへへ」
褒められてレイターは本当に嬉しそうに笑った。
続く隊長の言葉に僕は耳を疑った。
「今後は、アーサーが責任を取ることを条件に、船に乗ってもいい」
「えっ?」
僕もレイターも同時に声をあげた。
僕は驚愕の声。彼は歓喜の声だ。
「イヤッホー」
レイターは万歳をしながら飛び跳ねている。
アレック隊長の気まぐれは今に始まった事ではないが、これは無理だ。僕は抗議した。
「隊長、レイターは免許が無いんですよ。公道で操縦するのは宙航法違反です!」
僕は万一に備えてレイターの腕を見ておきたいとは思ったが、普段から操縦させるなんて法に触れるようなことは考えてもいなかった。
「構わんさ。どうせこいつは死人だ。それに言っただろ、お前の責任、ということは、お前が乗せたくないなら乗せなきゃいいんだ」
「え・・・」
レイターの顔が一瞬で曇った。曇ったというレベルではない。土砂降りの雨に打たれたと言う表情だ。
そういうことか。僕は念を押すように言った。
「もう、課題を怠けるのも、掃除さぼりも許さないからな」
「ア、アーサーさん。仲良くしましょうね」
レイターが媚びるような、そしておびえるような目で僕を見た。 (おしまい) <出会い編>第三十八話「運命の歯車が音を立てた」へ続く
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