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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(4)
士官学校での態度からアーサーはハヤタマ殿下が自分を嫌っていることを感じていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」(1)(2)(3)
<少年編>マガジン
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観艦式を前に、旗艦内のホールへと案内された。
招待された近隣星系の王家や財界人といった有力者が挨拶をしあっている。さながら社交パーティの様相だ。観艦式の外交利用。友好を深め、有事の際には協力を取り付ける。主催者である女王フチチ十四世はしたたかでやり手だ。
レイターが『王子さま』と表現した仰々しい式典用の礼服は機能的とは言えないが、権威付けには十分役に立つ。十二歳の僕の前に大人たちの列ができた。
「連邦からぜひ我が軍への支援を」
「早期に防護壁が必要な状況であることをご認識ください」
「駐留軍への負担が財政を圧迫しておりまして……」
入れ代わり立ち代わり陳情が続く。
「連邦軍として善処いたします」
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彼らは知っている。僕には忘れる能力がないことを。文書で要望を出すより確実だ。
連邦軍への正式な陳情ルートは方面司令官であるクナ中将が窓口となっている。きょうは軍事パレードに参加するため、この場にはいない。身長が二メートルを超える巨漢のクナ中将は威圧感が半端ではない。ここにいる有力者たちは子どもである僕の方が御しやすいと考えているのだろう。
父上からは人の話を途中で打ち切らないよう戒められている。
話が長い人物には僕の背後からバルダン軍曹が、咳払いをして怖い顔でにらみつけた。クナ中将並みの迫力がある。軍曹に来てもらってよかった。
対人コミュニケーションは、戦闘訓練より疲弊するな。と思った時だった。
「トライムス殿下、ご歓談中恐れ入りますが司令官室へお願いいたします」
上階へと案内された。総司令官は僕と二人のみで話がしたいという。バルダン軍曹を部屋の外で待機させ中へ入る。
凛とした立ち姿の美しい人だった。軍服をまとった女性が僕を出迎えた。ハヤタマ殿下の母、フチチ十四世。飾り気のない執務室に、花が活けられているかのように錯覚する。
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互いに敬礼すると王家の印である金色の前髪が羽根の様にふわりと揺れた。
「ファルーバ・デ・フチチです」
「アーサー・トライムスです」
「本日はこのような辺縁の地まで連邦軍次期将軍殿にご臨席を賜りましたこと、感謝申し上げます。フチチは連邦の門でございます。門番がいなければ簡単に攻め込まれること。心に刻んでいただけましたら幸いです」
「フチチの重要性は深く認識しております」
聡明で落ち着いた女王。ご子息とはかなり印象が違う。
「少しお話をよろしいですか」
女王がブラインドを開けると緑色の首都惑星が目の前に広がった。
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「私の祖先は、ソラ系からのフチチ移民一世です。中心部からはかなり離れておりますが、農作物の栽培が可能な惑星ということで入植いたしました」
フチチを含め王室世襲制を導入している星系の多くはソラ系からの移民だ。
かつて、地球からの移民を促進するため先着順に統治権を与える政策がとられた。最初の入植者は王や貴族となり、星を支配する権利が子どもたちに継承されていくというものだ。苦労をいとわず開拓し、国を作り上げた者への見返りとしてスタートした制度は、その子孫に引き継がれ現在に至る。
「入植当時に鮫ノ口暗黒星雲を挟んだ隣星系のタロガロと交易を始めました。農作物を輸出し、気候の良いフチチを訪れる旅行客も多かったと聞いております。それが、宇宙三世紀前に大戦がはじまり、状況は一変しました。フチチは連合、タロガロは同盟に加盟し断絶したのです。けれど、中央に振り回されぬよう、フチチとタロガロは不可侵の密約を交わしました。ところがご存知の通り、六年前、アリオロンの盟主抽選で好戦派が盟主となり、突如、暗黒星雲からタロガロ軍が攻めて参りました」
フチチの歴史についてもちろん僕は知っている。女王はそのことをわかった上で話している。人払いした理由は一体何だろうか。
(5)へ続く
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