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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(4) さよならは別れの言葉
『無敗の貴公子』エース・ギリアムは引退レースでも表彰台の一番高いところに立った。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第四十話(1)(2)(3)
三位のオクダが表彰台で泣きながらエースに握手を求めた。
一緒にデビューして以来、エースのライバルとして対戦してきた。きょうの最後のレースで勝ちたかっただろう。予選から気合いが入っていたことはよくわかった。
オクダがエースに勝利することはついになかった。けれど、その表情に悔しさがなかった。
エースと戦ってきたことを誇りに思うすがすがしい涙だった。
「オクダはいいレーサーだ」エースの言葉を思い出す。
*
情報ネットワークは大騒ぎだ。
レイターが積んでいたエンジン『直線番長』のメガマンモスファンが狂喜乱舞して大量に書き込んでいる。
ナセノミラのコースレコードと公式の瞬間最高速度を、レイターが大幅に更新していた。
レイターが言っていた通りだ。「エースは速くねぇが強い」速さでは『銀河一の操縦士』が勝った。でも、勝負は『無敗の貴公子』が制した。
エースの引退を優勝で飾る、というわたしの仕事は無事終えることができた。
けれど、心が半分に引き裂かれているような感覚。
わかっている。レイターのことが気になっている。
レイターとエースが試乗コースで隠れて対戦し、レイターが勝った。
けれど、エースに宇宙塵が当たったことから、わたしは不公平だとバトルの無効を訴えた。
不公平かどうかは誰にもわからないのに…。
後から聞いた。
バトルの直前にレイターはわたしたちを守って肋骨を折っていたことを。
出張から戻り、謝るわたしにレイターは宣言した。
「ティリーさんの言うとおり、誰にも文句をつけられない状態でエースとバトルがしたくなった。あいつが引退する前に決着つけてやる」と。
ずっとレーシング免許なんて無駄だと言い続けていたレイターが、ライセンスを取ってレーサーになり、そして、文字通り、このS1の最終戦で命を懸けて戦った。
決着はついた。
『銀河一の操縦士』は公式戦で『無敗の貴公子』に破れたのだ。
レイターが死ななくてよかった、とわたしは喜んでいるけれど、本人はどう思っているのだろう。
あそこで、彼は本気で死ぬつもりだったに違いない。
レイターにとってレースで負けるとは何を意味するのだろう。エースは引退し、もうリベンジの機会はない。
銀河一の操縦士にとって宇宙船の操縦は彼の人生そのものなのだ。
人生の敗北…。
そんなことはない。あのレースを見たらわかる。
機体の能力が違いすぎた。でも、それを含めて勝つことがS1での勝利だ。
レイターのこと、わかっているようでわかっていない。
わたしにできることなんて何もない。それでも、会いたい…。
*
『無敗の貴公子』の引退。
情報ネットワークには「卒業おめでとう!!!」と涙の投稿があふれた。
マスメディアは一般のニュースや情報番組で大きく取り上げた。エースはただのレーサーじゃない。大企業クロノスの次期社長なのだ。
ジュニア時代から天才少年として注目されていたエース。幼いころのお宝映像も飛び出した。
漏れがないようにすべて録画した。
そして、番組はレイターのこともあわせて取り上げていた。
万年六位のスチュワートが無名の新人起用で念願の表彰台へと躍り出た、『期待の新星あらわる』と。
レイターのプロフィールが流れる。
有名人のエースと違って映像が少ない。
レイター・フェニックス、純正地球人。
天涯孤独で連邦軍のジャック・トライムス将軍が後見人となっている。
将軍の子息、アーサー・トライムス殿下と少年時代から行動を共にし、十四歳という最年少で皇宮警備予備官となり小型二級の免許を取得。戦闘機部隊で活躍する。
レイターではなくアーサーさんの映像が説明に合わせて使われていた。
将軍家のアーサーさんの素材はテレビ局にふんだんにあるのだろう。
ソラ系へ戻り月の公立ハイスクールへ入学。制服を着たレイターの写真が映し出された。
情報ネットワークにアップされていたもののようだ。友人が撮影したスナップ写真だろうか。高校生とは思えない幼い笑顔だった。 (5)へ続く
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