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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(3)
アーサーの相談を受けて、アレック艦長はレイターに航行ログを見せることを許可した。
・銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)
「対戦航行ログについて、お前に閲覧権限を付与することになった」
と私がレイターに伝えた時の顔は傑作だった。
「本当か? 本当か? 俺、見てもいいの?」
「その代わり、ブツブツと声に出すのを止めてくれないか」
「わかった、わかった。ありがとう、ありがとう。アーサー、お前、本当にいい奴だよ。思ってた通りだよ。すごい、いい奴だよ」
自分の望みを聞いてくれる人なら、レイターにとって、誰でもいい人なのだろう。
喜んでいることは、暑苦しいほど伝わってきた。
その日から、レイターはいつ見ても自分の端末モニターの前に座り、延々とハミルトン少尉の航行ログを読み続けていた。
寝る間も惜しんで、とはまさにこのことだ。
「おい、いい加減勉強しろよ」
と私が声をかけても
「これも勉強」
とまるで意に返さなかった。
*
ハミルトン少尉の航行ログをイメージするようになって、レイターの操縦が変わった。
モリノ副長も気が付いている。
「あいつ、飛ばしに無駄がなくなった。というか切れが増したというのか」
ハミルトン少尉はいつものように鼻で笑っている。
「坊主が俺の猿真似かい」
レイターがかみつく。
「ハミルトン、待ってろ。俺は、あんたを倒して『銀河一の操縦士』になる」
「バカなこと言ってる暇があったら、子どもは勉強しろ」
「うるせぇ」
まるで親子の会話だ。
ハミルトン少尉が不敵に笑う。
「俺と対戦する前に、まずは、十対一なんだろ。そこにはもちろん坊ちゃんにも入ってもらうぜ」
そう言いながら少尉は、私を見た。
レイターが、一瞬うろたえたのがわかった。
先日、レイターとの対戦で土を付けたとはいえ 私とレイターの操縦技術にそこまで大きな差はない。
十対一で私が、レイターを見逃すというのはありえない。
だが、すぐにあいつは強がった。
「当ったりめぇだろ。誰が来ようと受けて立つぜ。そうしたら、あんたとサシで対決だ」
ハミルトン少尉が意味深なことを言った。
「まあ、坊主が俺に勝ったところで、銀河一の操縦士にはなれないぜ」
「何でだよ?」
「上には上があるってのが世の常さ。タルバニア海戦で俺は撃墜されてるんだ」
タルバニア海戦と言えば、敵アリオロン同盟のハゲタカ大尉率いるコンドル軍団に連邦軍が大敗した戦いだ。
ハミルトン少尉はあの海戦に参加していたのか。
*
「タルバニア海戦の動画が、見られねぇんだけど」
部屋に戻り端末の前に座ったレイターが口を尖らせた。
「セキュリティレベル四の扱いになっているな」
将官でなければ閲覧できない機密に指定されていた。
負けた戦闘を秘匿するのは好ましいことではない。確認しておく必要があるな。
将軍家の私には全ての情報に閲覧権限が与えられている。情報パスワードで端末にデータを引き出した。
モニターに動画を映し出すと、横からレイターが首をつっこんできた。
ハミルトン機に搭載されていたカメラのデータだった。
コンドルのエンブレムがついたアリオロン機が高速で横切る。
一目でわかる。動きが違う。スピードが違う。圧倒的な力量。
凝視するレイターの身体が固まっている。
「あんたは知ってるんだろ。こいつのこと」
「アリオロンの英雄、カールダイン大尉はハゲタカ大尉という異名を持っている」
「ハゲタカ大尉…」
「彼の通った後には一機も残っていないという意味だ」 (4)へ続く
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