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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(3)
ロッキーがティリーの父にレイターの紹介をすればするほど印象は悪くなる一方だった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① (1)(2)
<恋愛編>のマガジン
* *
ティリーは不安になってきた。ロッキーさんの話は嘘じゃない。だからフォローのしようがない。
隣のレイターは黙々と食べている。このお店の料理はおいしいと評判なのに、味わっている余裕がない。
ロッキーさんは一生懸命に気まずい雰囲気を修正しようとしてくれている。その気持ちはありがたいのだけれど、これ以上オウンゴールはしないでほしい。
「いやあ、僕はハイスクールを卒業して地元の小さな映像制作会社に就職したんですけどね、こいつは大企業のクロノス社に入社しましたし」
「ほう、ティリーの先輩だったのかね」
「そうなのよ」
一応我が社は一流企業だ。パパは公務員で安定的なことに価値を見出していて、わたしの就職もクロノスだから見逃してくれたということがある。
「何といってもレイターには将軍家がバックについてますから。就職にも困りませんよ」
まずい、パパは軍隊を毛嫌いしているのだ。そのことをロッキーさんは知らない。パパが眉をひそめた。
「それは、将軍家のコネ入社ということかね?」
「コネで悪いか」
聞こえるようにレイターがつぶやいた。
わたしは知っている。コネ採用と言ってもレイターは優秀なのだ。一方でパパは不正とか癒着が大嫌いだ。
パパとレイターの出会い頭にできた小さなひびは、ロッキーさんの援護射撃によってどんどん亀裂が広がっている。何とか取り繕わなくちゃ。
「レイターは営業マンとしても優れてたのよ。クロノスにいたころは、月間最高売り上げも記録していて、ね」
レイターに同意を求めた。彼は無表情をくずさなかった。うなずくなり反応してほしい。いつもはおちゃらけたお調子者なのに、きょうはほとんど口を開かない。
「では、なぜ君はクロノスを辞めたのかね?」
「……」
パパの質問を無視してレイターはフライドチキンを口に入れた。
レイターがクロノスを辞めた理由。社内の非公式レースでエースに勝ったことが原因だ。会社を騒がせたとしてテストパイロット部への出入りが禁止となり、彼は辞表を出した。
沈黙を破ったのはロッキーさんだった。
「処分受けて、一年で辞めたんだよね」
「そんなことだろうと思ったよ」
うなづくパパにあわててフォローを入れる。
「パパ、処分と言っても懲戒免職とかじゃないから」
ロッキーさんが目を丸くした。
「え? そうだったんだ。会社、首になったんだと思ってたよ。あの頃、こいつ、飛ばし屋相手に怪しい副業やってたから」
「え? そうなの?」
今度はわたしが驚いた。いや、驚くことじゃない。レイターなら十分あり得る。
パパがロッキーさんに顔を向けた。
「ロッキー君、ガールフレンドはいないのかね?」
「レイターは昔から女の子にもてましたけどね、僕はさっぱりで」
「君はティリーのことをどう思うかね?」
「いやあ、かわいくて素敵ですよ。レイターにはもったいない……」
机の下でドンっと音がした。レイターがロッキーさんの足を蹴飛ばしたようだ。
「というか、うらやましいです」
パパがまじめな顔でわたしを見た。
「ティリー、お前はロッキー君のことはどう思っている?」
「いい人よ」
「じゃあ、ロッキー君とつきあったらどうだ」
「は? パパ、何言ってるの」
「おまえは、まだ人を見る目ができていないんだ。危険な感じに憧れるのもわからんでもないが、こんな危なっかしい奴と一生生活できると思うか」
「一生ってパパ、考え過ぎよ」
「何だ、結婚する気はないのか」
パパの言葉に少なからず動揺した。
結婚、そこまで考えてない。だってまだつきあいだして間がないんだもの。でも、レイターはどういうつもりでいるんだろう。
ちらりとレイターの様子を見る。聞こえないふりをして、グラスのお酒をあおっていた。
疲れる夕食だった。 (4)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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