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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(18)
フチチ首都惑星の緑の農地を前にアーサーはハヤタマ殿下と向かい合っていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」
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<少年編>マガジン
「仰せの通りに」
アーサーは頭を下げた。
「フチチは、大きな産業はなく経済的には下位グループだ。だが、目の前に広がるこの大地の恵みがあり、勤勉であれば食うには困らぬ。我々は焦土から再建したのだ。もう、二度と焼かれたりはせぬ。我がこの手で守る」
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「連邦軍も協力させていただきます」
「そうじゃ、連邦はフチチのためにあるのだからな」
殿下の決意を聞きながら、複雑な気持ちに囚われる。連邦はフチチを守る。それは、自分たちの門番として必要としているからだ。
「今回、連邦軍に世話になった。礼を言うぞ。母殿から謝辞を伝えるよう言われたからな」
「当然のことをしたまでです」
味方の司令官を救出するのは友軍として当たり前のことだ。
「そちにはこれをやる」
手渡されたのは十センチ四方の白いプレートだった。
デジタルアートだ。
手の中のプレートが徐々に色づく。深い緑。単色ではなく微妙な濃淡がある。目の前に広がる農地の景色が手の中に再現されているようだ。それが、見る間に赤く輝き染め変えられる。炎と血の色。それは徐々に薄れて灰色に変わり、その後プレートは真っ黒になった。
漆黒の中心から、光が放たれ、鮮やかな緑が浮き上がる。プレートが眼前の自然と同化した。
十秒ほどの色の変化。ただ、それだけ。
それなのに広大なフチチの大地を前に胸が苦しくなった。この土地の歴史と、人々の思い、息遣いが色彩の中に込められている。
「我の描いたフチチじゃ。コピーはできるがこのプレートは原画指定してある。将軍家の家宝にするがよい」
「ありがとうございます」
「フチチは誰のものでもない。フチチはただそこにあるのだ」
ハヤタマ殿下の感性を通して、プレートの中に具現化されたフチチは間違いなく僕の心を揺らした。
僕は芸術に興味がある。ただの物体がなぜ感情や思考に影響を及ぼすのか、科学的な研究だけでは説明できない領域だからだ。
殿下は政とは全く異なる目で、世界と真実を見つめているに違いない。
*
アレクサンドリア号の格納庫に到着すると、押収したアリオロン戦闘機の周りに隊員たちが集まっていた。片側の噴射口はレーザー弾によって大きく破損していた。
「立派なもんだ、訓練生のコルバは大活躍ですな」
バルダン軍曹が僕に話しかけた。
「一つ間違ったら大事故でした。任務が成功して本当に良かったです」
機体を見ながら僕は頷いた。
鮫ノ口暗黒星雲の手前で、領空侵犯してきた敵機とハヤタマ殿下の機体が捕獲ケーブルで絡み合っていた。あの時、僕はコルバ訓練生にケーブルをレーザー弾で切り離すように命じた。
ところが、コルバ機から発射された弾はケーブルでなくアリオロン機の片側噴射口を直撃した。着弾の衝撃によって暗黒星雲へ向かっていた針路が変わり、二機はつながったまま連邦領内を慣性飛行し始めた。
その時には、観艦式の演目を終えた『びっくり曲芸団』がすでに現地近くに到着していた。ハミルトン隊長らがコルバと合流しハヤタマ殿下を保護。アリオロン機を捕獲した。操縦していた敵パイロットは捕虜として本艦に収容した。
想定以上の成果だった。
僕の指示通りにケーブルを切断していたら、敵機はアリオロン領へ逃走していただろう。
アレック艦長がニヤリと笑いながら僕の前に立った。
「アーサー、お疲れだった。その格好のままバルダンと一緒に尋問室へ行け」
(19)へ続く
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