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銀河フェニックス物語<少年編>第十二話 図書館で至福の時間を(4:最終回)
艦に戻ったアーサーは閲覧した議事録を記憶から再生する任務を始めた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十二話「図書館で至福の時間を」 (1) (2)(3)
<少年編>マガジン
「ふ~ん、法に触れなきゃいいんだ」
勝ち誇ったかのようにレイターはニヤリと笑った。こいつ何をする気だ。
「公序良俗に反することや、僕が悪用と認めた場合はカードの利用を停止する」
「あんたがルールかよ。ま、将軍家のお坊ちゃんだからな」
針で指先を突いたような痛み。レイターの言葉に傷ついたのではない。権力を振りかざすような発言をした自分への嫌悪感が跳ね返ってきた。
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「それにしてもインチキだよな。あんたって全部暗記できるんだもんな。レース映像も一回見れば覚えられるんだろ。俺なんか、何回も何回も見ねぇとわかんないんだぜ。飛ばしの操縦性、ライン取り、ゲームの流れ、きょうは全然時間が足りなかった。もっとレースが見たかったなぁ。将軍家のカードなら見られるのになぁ」
「……」
愚痴を無視して作業を続ける。インチキではない。生まれ持った情報処理能力なのだ。不正なことは何もない。なのに称賛の中に妬みの視線を感じながら生きてきた。
「でもさ、あんたは嫌なことも全部覚えてるってことだろ? 辛くねぇの?」
レイターに構うな。そう思っているのに反応してしまう。
「記憶を再現しなければいい」
「それを、自分で選んでんの?」
「ああ」
「そいつは不便だなあ」
不便? そんな風に言われたのは初めてだ。他の人は記憶を選択して呼び出せないと聞いた時には驚いたものだ。
「どういう意味だ?」
「例えば、あんた、お袋さんのことどうやって思い出してんだ? 俺は、よくわかんねぇけど、気がつくと思い出してることがある」
「思い出す必要があれば思い出すさ」
「だろ。思い出すのに必要性なんて必要ねぇのに」
針が深く刺さる感覚。息を吐いて振り払う。
「……仕事を続けたいんだ。静かにしてくれないか」
「へいへい」
レイターは自分のベッドに寝ころび、図書館で借りてきた航空概論のサブテキストを読み始めた。
「この公式、前に見たヤツだけど、どうなってんだっけ。ああぁ、いいよなぁ、一回見れば覚わっちまう奴は、やっぱインチキだよな」
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ぶつぶつつぶやいているのが気に障る。
仕事に集中しなくては。
まだあと三分の二は残っている。さらに考察も加えなければならない。だが、僕は入力装置のスイッチをオフにした。
「あれ? もう終わったのか」
問いには答えず、着替えるとベッドに寝ころんだ。
一度刻まれた記憶は消えない。明日やろうと一年先にやろうと同じだ。きょうは入力ミスをする可能性が高く効率が悪い。
母の記憶か。
レイターの言うとおり僕の記憶能力は『不便』なのかも知れない。
忘却すること、それは通常は退化と認識する。だが、記憶を自分の都合のいいように忘れ、改ざんし美化していく。この自己防衛が退化であるはずがない。
レイターたちは記憶が進化していくのだ。自らの人生に順応するように。
僕にはその能力がない。見たものはそのまま保存され、上書きはされない。だから、母が亡くなった時のことは思い出したくない。
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孤独が再現され、僕は押しつぶされそうになる。負の感情と結びついた記憶は制御できずに再現ループに入ってしまう恐れがある。だから、選択して思い出さないようにしている。
結局のところは無い物ねだりなのかも知れない。
航空概論を理解するのに四苦八苦しているレイターにとってみれば僕は何の苦労もしていないインチキな奴に見えるのだろう。
だが、僕もまたレイターをうらやましく思うことがあるということだ。(おしまい) <少年編>第十三話「銀行までお出かけしたら」へ続く
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