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銀河フェニックス物語<少年編> 第七話(4) 初恋は夢とともに
レイターはジュリエッタ・ローズへの思いが報われない恋だと知っていた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第七話「初恋は夢とともに」 (1)(2)(3)
・<少年編>のマガジン
「ジュリエッタはあそこから逃げ出したがってた。ダグの傍でこの仕事を続けるのが嫌だ、って俺の胸で子どものように泣いた。俺があの家を出るって宣言した時、ジュリエッタは言った。『ぼんが逃げられたら私も逃げられる』って……」
レイターはそこで言葉を切った。
ジュリエッタ・ローズにとって、レイターは心を許していた数少ない人間だったのだろう。
レイターが逃げ仰せたことをジュリエッタは知らない。
「ジュリエッタに俺が生きてる、って伝えられていたら、あいつ死ななかったかもしれない。俺がもっと大人で、もっと強ければ、あいつを救えたのに。俺があいつに尊敬される男になっていれば、ジュリエッタは……」
レイターの声が後悔に震えていた。目に涙が浮かんでいる。
「ちっ、煙が目にしみた」
彼はたばこの火を消した。
ジュリエッタがレイターの後を追ったかどうかはわからない。
ただ、彼女が逃げる先として選んだのが死だったとは言えるのだろう。
それにしても、レイターはどれほど深くグレゴリーファミリーと関わっているのだろうか。
「眠れそうか?」
僕の問いにレイターは首を横に振った。仕方が無い。僕は睡眠導入剤を彼に手渡した。
薬を飲んで横になると彼はすぐに眠りに落ちた。
*
「なあ、頼みがある」
翌日の就寝時、珍しいことに彼が私に頭を下げた。睡眠導入剤を欲しいという。
「きのうは久しぶりによく眠れたんだ」
「ダメだ。薬に依存するようになる」
僕は断った。
「ちっ、ケチ」
レイターは舌打ちをした。
「ま、いいや、ザブんとこから酒くすねてこ」
薬が手に入らなければ酒か。彼が部屋を出ようとするのを僕は止めた。
「何だよ」
不満げな顔で彼は僕をにらんだ。どうしたものだろう、彼がうなされるとうるさくて僕も寝付けない。自身の体調を整えておくことも任務の一環だ。
「君、根本的に治療する気があるかい?」
「あん? 治療?」
彼には自分が病気だという自覚がない。
「おそらく君は外的ストレス障害という病気だ。ダグに命を狙われた経験が原因で、不眠症になっている」
レイターは神妙な表情で僕を見た。
「ふ~ん。じゃあ、とっとと薬出してくれよ」
「薬は対処療法でしかない」
「どうすりゃいいんだよ」
「すべてを僕に話すことができるかい?」
「あんたに? 何を?」
「ダグとの関係すべてだ」
「何であんたに話さなきゃなんねぇんだよ」
「根本治療に必要だからだ」
「……」
彼は頭は悪くない。今の状況を分析している。
「大体はあんたに話したし、あんたもわかってるじゃん。ダグに十億リルを懸けられたせいで、マフィアに命を狙われて、命からがら逃げ回り、この艦に密航した」
「どうしてダグは君に十億リルを懸けたんだ?」
レイターは注意深げに僕を見た。マフィアとの関係は彼にとっては命に関わる話だ。知られて都合の悪い内容もあるのだろう。僕に伝えるべきか、考えている。
「ま、いっか。あんたは、おしゃべりする友人もいなさそうだから口も固そうだ」
どこまでも失礼な奴だ。
「どこから話せばいい?」
彼の話は興味深い物だった。 (5)へ続く
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