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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第六話 不可思議な等価交換(中巻)
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・<ハイスクール編>不可思議な等価交換 (上)
「通報すれば、警察が将軍家に捜索に入る。将軍家始まって以来の不祥事だ。俺は少年だから名前が出ることはねぇが、ジャックは困るだろうな。監督不行き届きって。でも、そんなことにはならねぇ。あんたの通報はその前にもみ消される」
「あなたって人は・・・」
わたしは絶句した。
わたしの通報が意味を持たないことを、計算に織り込んでいる。
「軽蔑してもいいぜ、俺はこういう人間だ」
いつもおちゃらけているレイターが、真剣な表情でわたしの目を見つめた。
この人は、現実の中に生きている。
一方でわたしは、文献の中の知識でしか対応できない。
そしてわたしは、自分にない、リアルな世界に惹かれていた。
*
「お嬢さま、見せ物小屋にも、もう飽きたでしょう。あそこへ寄りつくとバカがうつります」
バブさんもお兄さまも、わたしがレイターの部屋へ遊びに行くことに、いい顔をしなかった。
二人が何を心配しているか、わたしにはわかっていた。
恋愛沙汰だ。
もちろん将軍家にも自由恋愛は認められている。ただし制約が無いわけではない。父と母は数々の障害を乗り越えて結ばれた。
現状を考察する。
わたしは、レイターが学校から帰ってくるのを待ち焦がれている。
これは、わたしがレイターに対して好意を持っていることを示している。
であるとすれば、その好意のレベルは、友情なのか? 恋愛なのか?
一体どこに位置しているのだろうか。
測る物差しもないのに、人はどうやってそれを判断しているのだろう。
心理学の専門書や哲学書を紐解く。
裁判の判例を読んでみる。痴情のもつれから発生する事件は多い。
ヒントになりそうなのは芸術、文学だった。
けれど、どんなにデータベース検索をかけても、わたし固有の解は見つからなかった。
文献上の分析であれば難解であっても、結論へ近づけるのに、自分の心を考察するというのは、なんと難しい作業なのか。
一方で、レイターはわたしのことをどう思っているのだろう。
そのことを考えると、分析や考察どころではなかった。
体温が上昇し、心拍数が高くなる。息をするのも苦しい。病状が一気に悪化したかのようだ。
嫌われてはいないと思う。
ただ、お兄さまは言っていた。
「レイターは女性なら誰にでも優しい」と。
わたしへの優しさは、女性一般に対するものと同じなのか違うのか。比較対象がなく判断がつかない。
加えて、友人の妹であるわたしに対する好意のレベルは、友情の延長であるかも知れない。
もしくは、体が弱く友人もいないわたしに対する同情か。
『銀河一の操縦士』を目指す彼の未来は、時間も空間も広がっている。それに比べてわたしの世界は、ほんの限られたものでしかない。
わかっている。
わたしは、レイターの世界へ一緒に入っていくことはできないことを。
レイターの人生にとって、わたしという世界は通過点でしかないのだ。
* *
フローラを所有したい。
これまで女の子とはいろいろ遊んだけれど、こんな気持ちは初めてだ、とレイターは思った。
フローラは誰のモノでもなくフローラのモノだ。
でも、俺はフローラを俺のモノにしたい。俺のモノだと所有権を主張したい。
俺は誰のモノでもなく俺のモノだ。だが、フローラになら所有されてもいい。
「恋の始まりに理由はない」
俺が昔、大好きだったジュリエッタが教えてくれた言葉だ。
フローラのどこが好きだとか、どうして所有したいとか、そんなことはどうでもいい。理由なんてねぇ。
恋ってのは、落ちる時には勝手に落ちるんだ。
俺がフローラを所有したい、なんて言ったらアーサーは絶対許さないだろうな。
だが、この件において、許す許さないの判断ができるのはフローラだけだ。 下巻へ続く
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