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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(2) さよならは別れの言葉
将軍家のアーサーはレイターがフローラの後追い自殺をしようとしたのを止めなかったという。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第四十話(1)
「そう。アーサーはその時は、その方がレイターにとって幸せなんじゃないかと思ったんですって」
信じられない。怒りが沸き起こる。
「何なのそれ? アーサーさんはレイターの友だちじゃないの? レイターが死んだほうがいいっていうの?」
友だちという言葉を口にして、違和感を感じた。
間違えた。レイターとアーサーさんはフローラさんを挟んだ義理の兄弟だ。いずれにしてもアーサーさんは自殺を止める立場にいる。
「ティリー、落ち着いて。アーサーも、今ではその判断が間違っていたと考えているわ」
「当たり前よ」
「でも、当時のレイターにはフローラしか拠り所がなくて、アーサーは、自分はフローラの代わりになれないし、レイターを支えられるとも思えなかった。それほどにレイターとフローラは依存しあっていたって」
苦しい。聞きたくない話。でも、わたしが聞かせてと言ったのだ。
「その後、レイターは積極的に死にたい、とは言わなくなったけれど、いつ死んでも構わない、って思っているんだろうって…」
レイターはずっと『愛しの君』であるフローラさんを追いかけている。
同じような話を、御台所のヘレンさんから聞いたことを思い出した。
「彼は死んだ彼女のことしか考えていなかった。レイターは病んでたわ。レイターは死んだら彼女に会える、って滅茶苦茶な飛ばしをして、船に乗ったまま死にたがってた」と。
裏将軍時代のレイターはそうだ。当時の動画を見ても、死と紙一重というところで飛ばしていた。
でも、わたしと飛ばしている時のレイターは違う。絶対に事故らないという安心感があった。
なのに、今、レイターはここS1のコースで、自らパラドマ発火を起こして船に乗ったまま死のうとしている。どういうこと?
この勝負でエースに勝って、そしてフローラの元へ行こうとしている。
もう、やめて。
フローラに対して憎しみがわく。
ひどい、レイターを連れて行かないで。
許さない。
レイターとわたしは喧嘩ばかりしていたけれど、楽しいこともたくさんあった。
助手席から見る銀河一の操縦士はいつも幸せそうに見えた。
仕事の合間にお祭りやイベントに出かけたよね。デートのようで、わたし、勝手にときめいていた。
仕事もたくさん助けてもらった。なのに、お礼も言ってない。
あの笑顔は偽物だったの?
「俺のティリーさん」ってどんな気持ちでわたしを呼んでいたの?
いつもおちゃらけて、本心を見せてくれない。
けれど、時々透けて見える。孤独と戦っているのが。
生きることがそんなに辛い?
だったら一人で抱えないでよ。
レース実況のボルテージが上がる。
『二機が並んでいます。先にゴールを切るのは無敗の貴公子、エース・ギリアムか、それともスチュワートの新人、レイター・フェニックスか?』
ゴールラインに二機がもつれ込むように突入する。
わたしのことなんてレイターの眼中にはないのかも知れない。
でも、「ずっと一緒に飛んでくれ」ってあなたが言ったのよ。
わたしは、あなたとずっと一緒に飛びたい。
全速で飛ばすプラッタと、金色に輝くハール。
二機が並んでゴールラインを超えた。
『おっとぉ、どちらが先にゴールしたんでしょうか? 中継席からは同時に見えました。目視ではなく機械判定を待ちます』
どちらが勝っても、もうどうでもいい。
ハールが燃えないで、火が出ないで。
ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ……
緊急サイレンが鳴った。
レイターは不死身なんでしょ。お願いだから死なないで! (3)へ続く
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