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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(30)
ティリーはマフィアの桃虎とレイターの関係が気になった。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版① ② ③ ④
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ピンクタイガーがガーラを退けてから、デリポリスへ向けての行程は思いのほか順調に進んだ。
グレゴリーファミリー円卓衆の登場が、ほかのマフィアの動きを牽制していた。桃虎を敵に回すのが得か損か考えると、簡単にはフェニックス号に手が出せないようだ。
暴走族や弱小マフィアと言った雑魚クラスはギャラクシー連合会の特攻隊が抑え込んでいる。
自動操縦の間、レイターはソファーで横になっていた。
これ以上、彼に無理をさせるわけにはいかない。失明の恐れがあるのだ。かといって僕に何かができるわけではない。このままデリポリスへ入ってしまいたい。
だが、話はそんな簡単には終わらなかった。
デリ星系まであと少し、というところでジムが叫んだ。
「レイター! また、ガーラファミリーっス。五百機に増えてるッス」
レイターはゆっくりと身体を起こしながら言った。
「あいつは簡単にはあきらめねぇだろうな。手下の二十人、俺が殺したようなもんだから」
第三次裏社会抗争で、マフィアから追われていた十二歳のレイター。正当防衛が認められるとしても、一体、何人を死に追いやったのだろうか。
『ガーラ』だけじゃない、『シャーク』や『クロコダイル』もレイターによって壊滅状態へ追い込まれた。
そして、グレゴリーファミリー本隊は傷を負わず、一気に勢力を拡大した。
レイターはファミリーのために一人で戦ったようなものだ。
ダグ・グレゴリーが描いたシナリオが頭をかすめる。最初から狙いがそこにあったとしたら。
嫌な気分になる。
ガーラの髭面がモニターに映し出された。
「レイター・フェニックス。貴様が桃虎の姉貴とどういう取引をしたか知らんが、お前の首はこのガーラがいただく。覚悟しやがれ」
ヘッドホンを片耳につけながらレイターが僕に言った。
「マーシー、この先で高速航路へ入る。後ろの警備艇に伝えてくれ」
「航路へ? 一般船は巻き込まないんじゃなかったのかい?」
「デリポリス付近を飛んでるのは、どうせ警察関係車両さ。自分で身を守れってんだ」
ジムが困ったような声で言った。
「でも、レイター、一番近いインターチェンジは下り路線の入口ッスよ」
「逆路線を突っ切んだよ」
「えええぇぇぇっつ!」
ジムと僕は声を揃えて大声を出した。交通量が多いフリーウェイを逆走するということか。
「ターンポイントで上り路線に乗り換える。しっかりつかまってろよ。ちょっとうるさくするぜ。エンジン音が聞こえねぇとやりにくくてしょうがねぇ」
レイターがヘッドホンをはずすと、マザーの読み上げ音が船内に響いた。
「操縦ってのは視覚だけでも聴覚だけでもねぇ、全身でやるんだ」
船が加速を増した。
彼は集中するためにヘッドホンにしていたわけじゃなかった。うるさいだろうと僕たちに気を使ってヘッドホンをしていたのか。
後ろの警備艇から逆走ラインには入らないと返答が来た。真っ当な判断だ。
「待ちやがれぇ!」
ガーラの声がモニターから響いた。
高速航路のインターチェンジが近づく。
船の往来がかなりある。デリ星系からの下り路線。
「突っ込むぜ!」
フェニックス号が航路へ入る。合流する船に見えたのだろう。後ろから来た船が船間距離をあけた。
「ありがとよ」
フェニックス号ははそのまま船が飛び交う中で急反転した。
レイターから聞かされてはいたけれど、信じられない。航路の逆走。
後ろからついてきたガーラの船は、下りへ逃げると思っていたのだろう想定外の動きに混乱し、仲間同士で追突している。
これは、自殺行為だ。一つ間違えば大事故だ。
高速で向かってくる船をレイターは猛スピードでよけていく。彼の腕を信じているが、さすがに寿命が縮まる。
ガーラたちも手をこまねいて見ているだけじゃなかった。五百隻が集団で固まって下り路線を逆走しはじめた。
「逆走が怖くてマフィアをやってられるか! レイター・フェニックスを追え」
物量による航路封鎖だ。 (31)へ続く
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