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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第七話 愛しき妹のために・・・(下巻)
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・<ハイスクール編>不可思議な等価交換 (上) (中) (下)
愛しき妹のために・・・ (上)(中)
お互いがお互いを必要としていることを感じることで、感覚が研ぎ澄まされていく。
味覚だけではない、視覚は明るさを増した。
そして、レイターとわたしの化学反応が始まった。
これは交際宣言を着火剤とする燃焼だ。お互いが燃料でもあり酸化剤でもある。魂が発熱して発光する。
生まれた熱エネルギーがさらに燃焼を加速する。
先人が言う通り、恋の炎は身を焦がすのだ。
同じ好意でも友情とは明らかに熱量が違う。
この『恋』という化学変化の最後に生成されるのは、『愛』かそれとも『破局』か。
その答えを見届ける時間が、わたしに残されているだろうか。
* *
レイターとフローラがつきあうと宣言してから数日が経った。
アーサーは、フローラが見慣れない緑色のペンダントをつけていることに気がついた。
胸元で輝いているあれは、アマ星の石だ。
「よく似合っているね」
私が声をかけると、フローラは少し照れながら嬉しそうに微笑んだ。
「昨日、ダウンタウンへ出かけた時、レイターが買ってくれたんです」
私は驚いた。
発作を恐れ、よっぽどのことでも無ければ家から出ることのなかったフローラが、街へ買い物に出かけたというのだ。
恋の生み出すエネルギーには恐れ入る。
フローラは、一生懸命にレイターと同じ世界へ入っていこうとしている。
「アマ星の石か。懐かしいな」
「お兄さまとレイターは、一緒にアマ星へ出かけたんですってね。このペンダントを見ながらその話を聞くと、何だかわたしもその場にいたような気持ちになれるんです」
フローラは緑色のペンダントヘッドに、そっと手を当てた。
アマ星を訪れた時、確かレイターは原石をくすねてきたはずだ。
あいつ、原石をどうしただろうか、と考えた時、私の心を読んだかのようにフローラが言った。
「レイターの原石は、プラモデルに変わってしまいました」
密売したということか。
「売ると法に触れる」とあれほどあいつに言っておいたのに。
フローラはくすりと笑った。
その天使のような笑顔を見てわかった。
フローラはレイターの違法行為を容認したということだ。
わたしの知っているフローラでは、あり得ないことだ。完全にレイターに毒されている。
人と人との関係は、よくも悪くも影響を与える。
その関係が深ければ深いほど、干渉の度合いも大きくなる。男女が恋愛感情を持って付き合うということは、それまでの人格に変化をきたすほど影響を与え合うということだ。
そして、それはレイターにもあてはまる。
帰る家の無い野良犬のようだったあいつが、刺激の中でしか生きていることを実感できなかったあいつが、すっかり落ち着いている。
人肌恋しさの夜遊びも止めて、フローラと共に早寝早起きするという健康的な毎日を送っている。
笑えるほどの変わりようだ。
フローラもレイターも幸せそうだ。
小説であれば、ここで結びのハッピーエンドとなるのだろう。
しかし、人生は続いていく。
そして、二人に残された時間は同等ではない。
フローラはどうするつもりなのだろうか。
母から譲り受けた高知能民族インタレスの記憶。
惑星状星雲の周りを公転する第十八番惑星の冷えた姿が、絶滅への秒読みと時間切れを暗示している。
同じ記憶を共有しているフローラのことを思うと、私は、胸が潰れるような感覚に襲われた。 (おしまい) 第九話「早い者勝ちの世界」へ続く
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