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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第七話 愛しき妹のために・・・(下巻)

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 愛しき妹のために・・・ ()(

 お互いがお互いを必要としていることを感じることで、感覚が研ぎ澄まされていく。
 味覚だけではない、視覚は明るさを増した。

 そして、レイターとわたしの化学反応が始まった。
 これは交際宣言を着火剤とする燃焼だ。お互いが燃料でもあり酸化剤でもある。魂が発熱して発光する。
 生まれた熱エネルギーがさらに燃焼を加速する。

 先人が言う通り、恋の炎は身を焦がすのだ。
 同じ好意でも友情とは明らかに熱量が違う。
 
 この『恋』という化学変化の最後に生成されるのは、『愛』かそれとも『破局』か。
 その答えを見届ける時間が、わたしに残されているだろうか。

* *

 レイターとフローラがつきあうと宣言してから数日が経った。
 アーサーは、フローラが見慣れない緑色のペンダントをつけていることに気がついた。

 胸元で輝いているあれは、アマ星の石だ。

「よく似合っているね」

16少年前目微笑

 私が声をかけると、フローラは少し照れながら嬉しそうに微笑んだ。
「昨日、ダウンタウンへ出かけた時、レイターが買ってくれたんです」

 私は驚いた。

 発作を恐れ、よっぽどのことでも無ければ家から出ることのなかったフローラが、街へ買い物に出かけたというのだ。

肩を抱く大バックなし

 恋の生み出すエネルギーには恐れ入る。
 フローラは、一生懸命にレイターと同じ世界へ入っていこうとしている。

「アマ星の石か。懐かしいな」
「お兄さまとレイターは、一緒にアマ星へ出かけたんですってね。このペンダントを見ながらその話を聞くと、何だかわたしもその場にいたような気持ちになれるんです」
 フローラは緑色のペンダントヘッドに、そっと手を当てた。

 アマ星を訪れた時、確かレイターは原石をくすねてきたはずだ。

アマ星の石のみ

 あいつ、原石をどうしただろうか、と考えた時、私の心を読んだかのようにフローラが言った。
「レイターの原石は、プラモデルに変わってしまいました」

 密売したということか。
「売ると法に触れる」とあれほどあいつに言っておいたのに。

 フローラはくすりと笑った。

振り向き逆長袖

 その天使のような笑顔を見てわかった。

 フローラはレイターの違法行為を容認したということだ。
 わたしの知っているフローラでは、あり得ないことだ。完全にレイターに毒されている。 

 人と人との関係は、よくも悪くも影響を与える。
 その関係が深ければ深いほど、干渉の度合いも大きくなる。男女が恋愛感情を持って付き合うということは、それまでの人格に変化をきたすほど影響を与え合うということだ。

 そして、それはレイターにもあてはまる。

 帰る家の無い野良犬のようだったあいつが、刺激の中でしか生きていることを実感できなかったあいつが、すっかり落ち着いている。

 人肌恋しさの夜遊びも止めて、フローラと共に早寝早起きするという健康的な毎日を送っている。
 笑えるほどの変わりようだ。

 フローラもレイターも幸せそうだ。

肩よせる

 小説であれば、ここで結びのハッピーエンドとなるのだろう。
 しかし、人生は続いていく。

 そして、二人に残された時間は同等ではない。
 フローラはどうするつもりなのだろうか。

 母から譲り受けた高知能民族インタレスの記憶。
 惑星状星雲の周りを公転する第十八番惑星の冷えた姿が、絶滅への秒読みと時間切れを暗示している。

 同じ記憶を共有しているフローラのことを思うと、私は、胸が潰れるような感覚に襲われた。      (おしまい) 第九話「早い者勝ちの世界」へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」