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銀河フェニックス物語<少年編>第十一話 情報の海を泳いで渡れ(7)

レイターは元機関長のハインラインさんの昔話を何度も飽きずに聞いていた。アーサーは面白いのかと聞いてみた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十一話「情報の海を泳いで渡れ」
<少年編>マガジン

「爺さん、面白れぇじゃん。為になるっつうか。姉さんの店に来るチンピラたちより百万倍マシだぜ。あいつら、酒癖悪くて自慢にもならねぇ話を偉そうに繰り返したあげく、暴力振るいやがるからな。よく殴られた」
「君は遊興施設で働いていたのか?」
「ダグんとこで酒作ったり運んだりして金もらってたんだよ」
 迷惑な酔客のあしらいに慣れているわけだ。
「十五歳以下の深夜労働は、連邦労働規制法違反だぞ」
 レイターが噴き出した。
「ぷっ、裏社会の帝王に法律守れってか。けど、違反はあんたもじゃん。明日は夜勤だろ」
「将校は労規法の適用除外だ。連邦軍法に定められている」
「真面目な顔で返すなよ。ほんと、あんたって笑えるな」 


 PPPPPPP……
 眠ろうとしたところへ、緊急危機連絡が機関室から入った。通信機のメッセージを見ると補助エンジンの推力が上がらないという。

 ベッドから出て素早く服を整える。
「何が起きてんの?」

 先に寝ていたレイターがむくっと体を起こした。
「君には関係ない、寝てろ」
 と言って足早に部屋を出るが、レイターが僕の言うことを素直に聞くわけがない。Tシャツのまま後ろからついてきた。

 エンジンの監視ルームに到着すると、機関長のほかハインラインさんら機関士たちが顔を揃えていた。

二三〇五フタサンマルゴに補助エンジンの推力二十パーセント減退」
「メインエンジンへの影響は?」
「現時点では出ていませんが、原因不明のため、判断不可」
 アレック艦長が不機嫌そうな顔で現れた。寝入りばなを起こされたようだ。

アレック横顔 眉間にしわやや口

「とにかく原因を探れ。敵の攻撃かどうかわかる前に証拠を消すなよ」
 モリノ副長が報告する。
「最悪時に備え、近距離基地に曳船の準備を要請しました」
「さすが、副長は手回しがいいな、後は任せた。俺は寝る。トライムス少尉は報告書を作っとけ」
 それだけ言い残して、アレック艦長は艦長室へ戻ってしまった。

「さっすが、アレックは大雑把だな」
 肩をすくめてレイターが笑った。その場にいた全員が同じことを思っただろうが、艦長の指示は的確だ。たとえふねが止まってでも原因の追究を優先するという方針。それさえ決まっていれば、後はやるだけだ。

 エンジンの監視モニターの数値を一つずつ確認する。プログラム系に異常はない。コンピューターウイルスの類ではない。
 どうやら強磁気によって制御装置が誤作動を起こしているようだ。なぜ、磁気を帯びたのか可能性をあぶり出す。
「磁気干渉を起こすものは艦内からは発見されていません」

 内的要因で無ければ、外部要因。
「時空震は近くで観測されていません」

 自然現象でも無いとなると敵の攻撃か。
「磁気爆弾による攻撃の恐れは?」
「ほかに船体に異常は発見されていません。補助エンジンのみに影響しているので可能性は低いとみられます」
 磁気爆弾が仕掛けられたとしたらふね全体のパフォーマンスが落ちるはずだ。補助エンジンだけと言う不自然な影響。

 僕は一つの可能性について発言した。
「範囲を限定する小型磁気爆弾の可能性はありませんか?」

少年正面@2軍服やや口

 宇宙船を狙う磁気爆弾の小型化。これまでに聞いたことはないが開発は簡単だ。しかも発見しづらいものになる。
「一体、何のために?」
 ハインライン元機関長に聞かれて僕は困った。補助エンジンだけを狙う意図が不明だ。だが、参謀として常に最悪の事態に備えるのが僕の仕事だ。現状から推論を導く。
「敵による新型兵器の試射かもしれません」
 隊員の視線が僕に集まる。
 この後、さらなる攻撃があるかもしれない。見えない敵の存在は隊員たちの不安を増幅させる。 
 その時だった。    (8)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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