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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(1) お出かけは教習船で
大手宇宙船メーカークロノス社に勤めるティリーはフリーランスの操縦士レイターとつきあうことになり、恋に仕事に忙しい毎日を送っていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十話「二段ベッドの上で見る夢」
<恋愛編>第三話「大切なことの順番」
<恋愛編>のマガジン
「何とかしとくれ!」
「空いてんだからいいだろが」
月の御屋敷で将軍家侍従頭のバブさんとレイターが喧嘩を始めた。
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わたしはあわてて仲介に入った。
「一体、どうしたの?」
「ティリーさんからも言ってやってくださいよ。もう駐機場がいっぱいなんです」
「いいじゃねぇか。どうせ使ってねぇ土地なんだから」
月の御屋敷は銀河連邦軍のトライムス将軍家の居宅で、レイターの住所登録地だ。
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次期将軍のアーサーさんはきょうは仕事で不在だという。
「あいつがいるとうるせぇから、いねぇほうがいいんだ」
二人の関係が深いことは知っているけれど、仲がいいのか悪いのか、今もってわからない。
御屋敷裏の駐機場にはレイターの船が何機も置いてあった。
さっき、フェニックス号を停める時に上空から駐機場を見た。小型船がパズルのようにきっちりと並んでいた。
「停めるところないわよ。どうするの?」
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「あん? そこ空いてるじゃん」
と、レイターが指さしたところは確かに空いていたけれど、中型船が入る場所じゃない。その狭いスペースに、最後のピースをはめ込むように器用に停めた。さすが『銀河一の操縦士』だ。
「もう乗らない船は捨てたらどうだい」
バブさんが嘆いている。
「船を捨てろだと、『銀河一の操縦士』がそんなことできるかよ!」
レイターは船を愛している。彼女であるわたしより愛しているのではないかと勘繰るほどに。
今回、月の御屋敷にお邪魔したのも、デートと言う名の機体の定期点検だ。
*
駐機場を二人で見て回る。
「いろんな船を持ってるのね」
「俺は銀河一の操縦士だぜ」
懐かしいクロノス製の小型ファミリー船をみかけた。
今、フェニックス号には、小型機のガレガレさんの船を積んでいるけれど以前はこの船を載せていたのだ。
ファミリー船といっても、違法スレスレな改造が加えてあって、よくバトルへ出掛けた。最近見かけないと思っていたけれど、将軍家に置いてあったんだ。ここなら駐機代を取られない。
宇宙船メーカーに勤めているわたしが知らないマイナーな船が並んでいる。宇宙船お宅のレイターは銀河の隅々まで船を求めて旅したという。
新型宇宙船が一堂に会するスペースシップショーを二人で歩いたことを思い出す。この人はガレガレさんのような個人メーカーのブースも全部回っているのだ。
つきあう前だったけれど、デートのようで楽しかった。
共通の趣味の力は、理解できない人を好きにさせるほど大きい。
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「この船たちの税金ってどうなってるの?」
相当な金額になるはずだ。心配になって聞いた。レイターは将軍家に税金を払わせていたことがある。
「あん? 船舶税はちゃんと払ってるぜ。だからいつも金がねぇんだよ」
「そうなんだ」
銀河一の操縦士をちょっと見直す。
いや、納税は市民の義務。この人は当たり前のことをしているだけだ。
わたしが勤めるクロノス社の高級船『スピーダ』がピカピカに磨いてあった。将軍家のようなエグゼクティブな人たちをターゲットとしたハイグレードな船種。五、六年前のモデルだ。
「これ、将軍の船?」
「俺のさ、十八の頃、こいつでクロノスに通勤してたんだ」
レイターは将軍のコネでうちの会社に入社し、一年だけ営業で働いていた。
「十八って新入社員でしょ。随分、贅沢ね。前から思っていたけれど、将軍ってレイターに甘いわよね」
「んにゃ、ジャックが買ったんじゃねぇよ。これ、俺が自分で手に入れたんだ」
クロノスに勤める前、レイターは凄腕の飛ばし屋『裏将軍』だった。
「自分で、ってどうやってお金を用意したの? そもそもスピーダって飛ばし屋が乗る船じゃないし」
将軍が保証人になったのだろうか。
「チッチッチ、こいつ盗品なんだ」
「はっ?」
「大丈夫だよ。盗品を盗んだのさ。ちゃんと警察の許可はおりてる」
全く意味不明だけれど、将軍家がよしとして駐機しているのだから問題はないのだろう。そう思うことにした。
ちょっと変わった見覚えのある船が置いてあった。
操縦棹が運転席と助手席の両方についている教習船。
「これ、突風教習船?」
「ご名答」
レイターが『裏将軍』を務めていた頃に乗っていた愛機だ。小惑星帯を死をも恐れぬ高速で飛ばしている投稿動画を何度も見た。
「不思議に思っていたのよ。どうして教習船なの?」
(2)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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