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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(28)
千五百機ものピンクタイガーの大軍がフェニックス号の前に立ちはだかっていた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版① ② ③
ピンクタイガーからフェニックス号に通信が入った。桃虎だ。
「坊や、久しぶりね。邪魔者はいなくなったわ」
坊や? レイターのことか。
「とりあえず礼を言うよ。で、あんたの要求は?」
話しぶりからして二人は知り合い、というか、かなり親しい。
「決まってるさ。百億リルだよ」
「あんたも知っての通り、俺は借金まみれなんだ。保証人の将軍家はケチだし」
と肩をすくめた。
「話をちゃかすとダグに叱られるよ。坊やの悪い癖だって、いつもあの人に言われてただろ」
レイターは不満げに口を尖らせた。まるで近所のお姉さんに諭される少年のようだ。
「よくお聞き、あたしの提案は坊やとってに悪い話じゃないよ」
「あん?」
「あたしは、坊やに死んでもらいたくないんだよ。ダグのところへ一緒に百億をもらいにいこうじゃないのさ。山分けってことでどうだい?」
「裏切りの桃虎の言うことを信じろってか」
「賢い坊やは、あたしがどんな女か、よぉくわかってるだろ」
「……」
凄みのある微笑みを前に、レイターが考え込んだ。
それにしても、千五百機の物量を前に逃げ切れる算段があるのだろうか。
「まあ、いいよ。それより、このところすっかりご無沙汰だね。たまには家へ顔をだしな」
レイターは言葉を選ぶように応えた。
「マドレーヌ、悪いが俺には今、つきあってる彼女がいる」
桃虎の細い眉がピクリと跳ねた。
レイターは桃虎のことをマドレーヌと本名のファーストネームで呼んだ。普通の関係じゃない。これは、おそらく深い男女の仲。
「ふ~ん。坊やは特定の彼女を作らない主義だったよねぇ。レディースの彼女と寄りを戻したって話はガセだって聞いてるけど」
レディースの彼女というのはギャラクシー連合会の『御台所』のことだ。裏将軍の正妻で、二人は付き合っていると資料にあった。交通部の情報は間違っている。
「その話じゃねぇ」
「あたしの情報網に引っかかってこないってことは、まさか、坊や、一般人とつきあってるのかい?」
「ああ」
「へえ、それはぜひ顔を拝ませてもらいたいものだわね」
「頼むから止めてくれ」
レイターが心から嫌がっている。
「坊や、本気なんだ。彼女をこっちの裏世界に巻き込みたくないってわけかい」
桃虎は何だか楽しそうだ。
「でも、坊やは今回こっちの世界へ帰ってきちゃったじゃないのさ。『緋の回状』は坊やがこっちへ十二年ぶりに戻ったっていう復帰宣言にとれたよ」
「ちっ、ドジってダグんちの地雷を踏んじまったんだよ。しょうがねぇ」
「坊やらしくないね」
「フン」
「ま、とっとと彼女と別れて家においで」
「別れる気はねぇよ」
「忠告してあげる。彼女を巻き込まない、っていうのはもう無理だよ。坊やはここまで上手にダグから逃げていたけれど、もう逃れられない。ダグは銀河中にあんたの名前を知らしめたし、あの男が甘くないことはあんたが一番よく知ってるだろ」
「……」
レイターは痛いところを突かれたという表情で黙り込んだ。
「彼女が大切だったら早く別れることだよ。いいじゃない、こっちの世界にはあたしもいる。通信パスワードは前に教えた番号から変えてないから、いつでも連絡待ってるよ」
それだけ言うとピンクタイガーの船団千五百機はあっという間にいなくなった。一糸乱れぬその動きは軍隊のようだった。
「レイターは桃虎の姐さんとどういう関係なんス?」
「あん?」
「どうみても怪しい仲ッスよね」
ジムはうれしそうだ。レイターがジムを睨む。
「桃虎のことは、ティリーさんに絶対言うなよ!」
「やっぱり、やましいんッスね」
「バカ野郎! そうじゃねぇ、ティリーさんはやきもち焼きなんだ」
レイターは肩を落として深いため息をついた。僕は、彼がため息をつくのをはじめて見た。
「さてと、マーシー、船を一旦停めて点検するぜ。桃虎の奴、位置確認装置の類をくっつけていったはずだ。警備艇に連絡してくれ」
(29)へ続く
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