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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(34) 決別の儀式 レースの途中に

銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」①   
第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」①  (29) (30) (31) (32) (33)

 ガンマールは満足げな笑顔で僕らに話しかけてきた。
「すごいんだぜ裏将軍は。兄さんたちより絶対速いぜ。俺、尊敬しているんだ」
 面白くはなかった。裏将軍にそんな力があるのなら、飛ばし屋をやめて宇宙船競技レースに出て来ればいいじゃないか。

 裏将軍とやらと手合わせをしてみたい。自分の中に欲望が浮かんだ。

 その思いは末弟が亡くなりさらに募った。裏将軍がどれほどのものなのか。ガンマールが追いかけたものに触れてみたい。

 だが、ガンマールの死後しばらくして裏将軍は引退し、ギャラクシー・フェニックスは解散

ギャラクシーフェニックスの旗青

 裏将軍の消息は途絶えた。

 その裏将軍が今年に入って復活した
 七年前には無免許を隠すために厳しい情報統制が敷かれていたが、今は経歴を手繰り寄せることができた。

 レイター・フェニックス。
 自称『銀河一の操縦士』は、今も時々飛ばし屋のバトルに顔を見せていた。

出会い34レイター逆

 ようやく裏将軍を見つけることができた。だが、S1レーサーとなった僕がアステロイドベルトで飛ばす訳にはいかない。
 
 思案していた僕を小さな記事が興奮させた。
 彼の方から、この我々の舞台S1へとやってきてくれたのだ。

 ようやく、この日を迎えることができた。

 負けはしない。僕らは『兄弟ウォール』として危険な飛ばしにも臆せず技術を磨いてきた。
 ガンマール見ていておくれ。プロのレーサーになった兄の飛ばしを。お前が尊敬する裏将軍に僕は勝つ。

アルファール横顔後ろ目む

 裏将軍を僕の前に出させはしない。たとえ、このレースで僕が死ぬことになろうとも。

 裏将軍には、ここで償ってもらわなければならないのだから。


* *


「裏将軍、また、バトルしてくれ。今度はリベンジする」

ガンマール正面前目笑い

 レイターの耳にガンマールの声が聞こえた気がした。
「ああ、またな」
 って、俺はあの申し出を受けたんだ。

 それなのに、すまねぇなガンマール。
 約束果たせなくて。

 あんたはもっと飛びたかったよな。死にたくなかったよな。死ななけりゃ今だって飛んでいられたんだ。
 もっと飛ばしの世界を広げることができたんだ。

 あの頃の俺は、そんな簡単なことも想像できないでいた。

 御台が俺を誘った。
「追悼飛行に行かないの?」

18歳 ヘレン後ろ目む逆

「行かねぇよ。俺は悲しくねぇもん。ああ、ガンマールがうらやましい」
「ガンマールは、あなたに飛んでほしいんじゃないかな」
「死んだ奴のことなんて、知るかよ」

 側近のアレグロが企画したガンマールの追悼飛行に、俺は行かなかった。

 あれから、七年が経った。

 ガンマールあんた見てるか、俺の飛ばしを。
 あんたには未来があった。
 あんたなら『無敗の貴公子』の記録を止めていたかも知れねぇ。
 もしかしたら、今、ここS1の舞台で俺とあんたは競っていたかも知れねぇんだよな。

 悔しいよな。

 ようやく気がついた。
 ガンマール、俺は悲しい。

ピアノ@レーシングスーツ

 あんたを失って俺は心から悲しいよ。
 あんたは俺と同じ世界で飛ばしてた。

 飛ばし屋の魂を抱えて死んだガンマール。
 バトルの約束は果たせなかったが、これはあんたへの弔い、俺の追悼飛行だ。

 兄さんのアルファールよ、あんたもわかっているだろ。
 末弟のガンマールの飛ばしはこんなもんじゃなかったぞ。

 俺がここで今、再現してやる。

* *


 第三コーナー。ここからヘアピンカーブが続く、僕の後ろから裏将軍の機体ハールが距離を詰めてきた。

 過去のレースが脳裏に浮かぶ。プロになって、これまで何戦戦っただろうか。
 何機もぶつけ、何度も失格となった。恐怖と戦いベータールと一緒にここまでたどり着いた。末弟ガンマールの見ていた景色に限りなく近い世界。

 つづら折りのヘアピンカーブは勝負どころだ。
 淡い水色に発光する電磁コーナーガード柵が点在する。その間の曲がりくねった空間を通り抜ける。
 この難所は僕ら『兄弟ウォール』が最も得意とするところだ。

 裏将軍、内側から抜こうというのか。
 なら、その飛行ラインに船をぶつけるだけだ。

 操縦桿を中に振る。これでどうだ。危険空域をわずかに超える。コーナーガードに機体が触れ、青白くスパークする。

 ガンマール、お前の飛ばしを僕らは生かせているか。

 すぐ、次のカーブが迫る。 

 すかさず裏将軍は外側のアウトサイドから来た。さすがだ。左右の展開も速く、ライン取りにブレがない。末弟が称賛しただけのことはある。

 失格になったベータールから情報が入った。裏将軍は接触をことのほか恐れていると。ならば接近戦だ。

 裏将軍が急カーブのアウトサイドから切り込んできた。
 僕の前に行かせはしない。慣性力を使って機体後部をスライドさせる。抜けまい。鉄壁のブロック。ドリフト飛行だ。

 無線からファンの歓声が聞こえた。     (35)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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