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銀河フェニックス物語<裏将軍編>風の香り、その後(中巻)
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・風の香り ・風の香り、その後(上)
そして、レイターが笑った。
オレはにらめっこに勝った。
「ロッキー、ありがとよ」
レイターは吹っ切れたような顔をしていた。
「そうだな、急ぐことも、焦ることもねぇ。いつかは会える」
いつかは会える。そうさ、人はいつか死ぬんだ。急がなくたって。いつかあの世でフローラに会える。
でも、不死身だったら会えないかも、と言いそうになって、オレは踏みとどまった。
あぶない、あぶない。オレはいつも一言多い。
レイターがオレを見た。
「あんた今、何か言おうとしただろう?」
「何でもない、何でもない。お前、免許降りたんだろ。船に乗せてくれよ」
オレは話題を変えた。船の話をすればこいつはすぐに乗ってくる。
「へへん、これが限定解除免許さ」
レイターの奴、得意げな顔で免許を取り出した。首から下げてシャツの中に入れていた。肌身離さずって、普通そこまでしないだろう。
生まれて初めて見た。銀色の限定解除免許だった。
こいつ、船に乗りたくてうずうずしている。
「なあロッキー、今からアステロイドへ飛ばしにいこうぜ。隣に乗せてやるから」
裏将軍時代のあいつの恐ろしい操縦を思い出し、オレは釘を刺した。
「言っとくが、オレはまだ死にたくないからな、事故るなよ」
「俺は『銀河一の操縦士』だぞ! 事故るわけねぇだろがっ」
そう言ってあいつはオレの頭をはたいた。
「痛ぇよ」
学生時代と全く変わらないその痛みがうれしくて、オレは涙した。
*
将軍家の駐機場に突風教習船が置かれていた。レイターは二人乗りの船を愛おしそうに撫でながら言った。
「アレグロが持ってきてくれたんだ。もう、乗れねぇけどな」
右操縦席は小さくて、背が伸びたレイターは乗れない。
銀河統一バトルの時には「左教官席の封印を解いた」って情報ネットが大盛り上がりした。その理由は明かされず、世の中的には裏将軍はチビというイメージのままだ。
左教官席にレイターが座るとして、右操縦席はオレにも小さすぎる。
「これじゃ、オレの座るところがないじゃん」
レイターは隣にあった新型の四人乗り小型船を指さした。
「今の俺の愛機はこれさ」
クロノス社製のスピーダだ。これ、一番ハイグレードな船種じゃないか。
「どうしたんだ、これ? 将軍に買ってもらったのか?」
「ノンノン」
レイターが人差し指を左右に揺らして否定した。
「俺って天才なんだぜ、マフィアのラダルドんとこから、これで帰ってきたのさ」
「盗難船かよ」
「無意識のうちに一番いい船に乗ってたんだ.。で、もらった」
「もらった?」
「一応、証拠品なんだけど、ラダルドが壊滅しちまって権利放棄されたから銀河警察もいらねぇんだって」
「何だそれ、ずるくないか」
最高級の新型船は快適だった。
というか、こいつの操縦がうまいんだ。
いつ死んでもいい、と、誰も人を乗せなかったあいつが、オレを乗せて飛ばしてる。
心の傷が癒えているとは思えないけれど、でも、レイターは間違いなく変わった。
バトルが終わった後に「死に損なった」って言わなかった。
今、レイターの隣には御台所のヘレンも側近のアレグロもいない。
でも、オレやアーサーがいる。時は流れていく。
ヘレンが前にオレに言ったことを思い出す。「あたしはレイターを救えないけれど支えることはできるかもしれない」と。
結果として、レイターをフローラの呪縛から救ったのはヘレンだ。
ヘレンの無謀な行為のおかげで、フローラの幻影が現れ、それが死と直結していたレイターの精神を解放させた。
人との出会いはどこで何を起こすかわからない。
非力だと思っていても、そこに存在するだけで何かが変わることだってあるんだ。なんてこと、助手席で柄にもなく考えてたら、レイターが言った。
「俺さ、就職することになった。来月から会社員さ」
レイターが会社員? イメージがわかないぞ。 下巻へ続く
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