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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(6)
ハミルトンは「死んだらおしまいなんだよ。ゲームじゃないんだ戦闘は」とアーサーに伝えた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)
*
艦長室に呼ばれた。アレック艦長が喜んでいた。
「アーサー、お前がタルバニア海戦のデータ複製を申請したから、何をしだすかと思ったら、すごいじゃないか。あのアリオロンの敵機航行ログは」
「あれを作ったのはレイターですが」
「知ってるよ。レイターとハミルトンの了解は取った。事後承諾で悪いが、アーサーお前が作ったことにして、航行ログを軍本部に公開した」
「私が作ったことに、ですか?」
艦長はなだめるような口調で言った。
「仕方ないだろ。機密レベルの四にレイターは触れちゃいけないんだ。だがあいつの作った航行ログは連邦軍の宝だ」
上官の命令は絶対だ。
事前に聞かされていても反対はできなかっただろう。
艦長の言う通り、レイターに見せたこと自体が情報管理違反にあたる。
艦長の判断は正しい。
さらに、この敵機ログは戦略情報部の目に留まり、貢献賞に選ばれた。
あいつが寝ないで作ったログだ。
それだけの価値があることはわかっている。
受賞者は私。
このログを作ったのがレイターだと知っているのはアレック艦長とハミルトン少尉だけだ。
嫌な気分に襲われた。
この気持ちは複雑だ。苛立ち、怒り、悔しさ、恥ずかしさ、分析してみるがどのカテゴリーに入れていいのかわからない。
「貢献賞、って賞金はでねぇのかよ。じゃ、興味ねぇ。勝手にやってくれ」
レイターはシミュレーターに入れたタルバニア海戦のデータを使って、生き生きと模擬操縦している。
その様子を見ると、気づかぬうちに手を固く握りしめていた。
「貢献賞おめでとうございます」祝電が届くたびに苦しさが募る。居心地が悪い。「これは私が作ったものではありません」と叫びたい誘惑にかられる。
父上、いや将軍から連絡が入った時は、流石に正直に返信した。
「私が作成したものではありません。私には賞をいただく資格はございません」と。
父上からは短い返信が来た。
「飲み込め」と。
*
ハミルトン少尉の過去は複雑だった。
隠しているわけではないらしい。私とレイターに話すこともあった。
「俺はアレックに拾われたんだ。レイターと同じだな」
そう言って自虐的な笑いをみせた。
二十年前、航空大学を卒業したハミルトン少尉は、大手の民間航空会社にパイロットとして就職した。
旅客船のパイロットとしてがむしゃらに働き、あっという間に最年少の機長となって、いろいろな航路を飛び回ったという。
「すげぇじゃん!」
レイターが感嘆の声を上げる。パイロットはレイターの夢だ。
*
ハミルトン少尉によれば、当時、彼は社内で一番稼ぐパイロットだった。体格もいい少尉は女性に人気があったという。
「あの頃、俺は、何でもできると思っていたよ」
彼は同じ会社に勤める地上勤務の女性に結婚を申し込んだ。
空港で出会って、一目惚れだった。
人が羨むほど盛大な結婚式を開いた。駆け付けた社長が祝辞を述べた。
「これからも我が社のためにどんどんと宇宙を飛び回って下さい」と。(7)へ続く
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