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銀河フェニックス物語<少年編>第八話(9)ムーサの微笑み

座標示す音階暗号符を教えるためにヌイは不協和音を鳴らした。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>「ムーサの微笑み」 (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8
<少年編>マガジン

「わかったかい?」
「低音がヘ音記号の一オクターブ下のドから始まって、隣のレのシャープ。ヘ音記号のラとフラットのシ。ト音記号のミとファのシャープ、とソとシ。それから、一オクターブ上がってレ、ソのシャープとラとシその上のド」
 レイターは十三音を早口で答えた。頭の中で再現した音が逃げていかないうちに口にしている様だ。
「正解」
 ふぅ。レイターが長い息を吐いた。これは相当な集中力を要する。

「これを、音階暗号譜を使って宇宙航法概論で出てきたアロ関数に座標変換するんだ」
「うーむ」
 レイターは目を閉じた。何かを思い浮かべているようだ。目を開けると不思議なことを口にした。
「あのさあ、座標点の数値はわかんねぇけど、場所はわかる」
「どういうことだい?」

 レイターは、タブレットモニターに3D天球宙航座標図を映し出した。

名称未設定のデザイン (13)

 球体の座標を拡大していき、ペンで一点を指す。
「多分ここ」

 僕はその地点の座標数値を映し出した。
 驚いた。

 僕が示した地点とほぼ同じ数字がそこに並んでいた。最後の数値の違いはペンの手入力による誤差だ。

 僕はあわてて聞いた。

「どうしてわかるんだい?」

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 座標の位置が先にわかるなんてありえない。
「わかんねぇけど。浮かぶんだよね。俺、天球座標図見るの大好きなんだ。音を思いだしながらアロ関数見てると匂ってくる。この辺だって」

 こいつは音階暗号符の天才かもしれない。


「ヌーイー。明日、ギターを空の下で弾こうぜ」

腕前はのレイターTシャツ

 はずんだ声でレイターが僕たちの部屋に飛び込んできた。
 明日は久しぶりの陸だ。補給で惑星に着陸している間、自由時間が与えられている。

 僕やバルダンも少なからず浮かれていた。

 レイターがタブレットの地図を示す。
「ほら、港の近くの公園は演奏フリーだぜ」

 バルダンがのぞき込む。
「お、港町公園か。いいランニングコースがあるじゃないか。新鮮な空気を吸いながら、訓練に励むとするか」

 港町公園、という名前で僕は思い出した。
「そこで、前に路上ライヴをやったことがある」
 アーチストに寛大な公園だ。懐かしい。あれは僕が何でもできると信じていた頃。ちょうどアルバムを出した直後だ。

「へぇ。どうだった?」
「歌うのにいい公園だよ。久しぶりに、行ってみようかな」
「ヤッター」
 レイターが喜んでバク転した。
「一緒に『夏の日の雲』歌おうぜ」
 そう言ってレイターは、コーラスのパートを作り始めた。

「ねえ、ヌイとバルダンって、友だちだったの?」
 レイターが僕たちに聞いた。

 ハイスクール時代。バルダンと僕はお互い顔は知っていた。でも、話をした記憶はない。

「ヌイさま~って、女子学生の人気の的だったぞ。何て軟派な奴かと思っとった」
 茶化すようにバルダンが答えた。

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 確かに僕は軽音楽部で一番人気だった。

「お前さんが硬派過ぎるんだ。学校ではバルダンの方が有名人だったよ。格闘技でハイスクール総合優勝してるんだから。不良グループも手出しできないで、教師からも一目置かれてた」
「うーむ、あの頃が俺の人生のピークだったな」
 そう言ってバルダンは笑った。

 そんなことはない。確かに白兵戦部隊は優遇されていないが、バルダンの地上戦の活躍は評価されている。
 だから、このアレックのふねに呼ばれている。

 僕の人生のピークは、一体いつだろう。

 普通に考えればプロになってアルバムを出した時、あれが僕のピークと言える。子どもの頃からの夢を叶えたという達成感があった。

ギターハイスクール

 でも、何故だろう、あれを人生のピークとは認めるのには抵抗がある。
(10)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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