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銀河フェニックス物語<少年編>第八話(7)ムーサの微笑み
ヌイから音階暗号符を教わったレイターは楽しくて仕方がなかった。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>「ムーサの微笑み」 (1)(2)(3)(4)(5)(6)
<少年編>マガジン
* *
「面白れぇ」こんな世界があるなんて、面白すぎる。レイターは興奮していた。頭の中をいろんなメロディが駆け巡る。
ベッドの中に入っても興奮が収まらない。口ずさんでみる。
一通りあいさつは作れたぞ。
『暗号』って何て魅惑的な響きなんだろう。
言葉を思い浮かべては音に変換する作業を続けているうちに、いつしか寝入っていた。
翌朝、目が覚めて最初に考えたのは音階暗号譜のことだった。
同室のアーサーはすでに起きて、仕事に向かう支度をしている。あいつはじいさんみてぇに早起きだ。
今朝は叩き起こされる前に起きたからか、俺の方をちらりと見た。
俺は二段ベッドの上から『おはよう』って暗号譜で口ずさんでみた。
「おはよう」
アーサーが俺を見て応えた。
ん? 俺の暗号がわかったのか? それとも 偶然か?
今度は『このボケ』って音を並べた。
「ボケとは失礼な」
あいつは制服のボタンを留めながら、ムッとした顔で俺をにらんだ。
驚いた。
「あんた、何でわかるんだ?」
「それは、こちらの台詞だ。どうしてお前が音階暗号譜を知っているんだ」
俺は答えなかったが、あいつにはすぐにバレた。
「ヌイ軍曹か」
「……」
この艦にはヌイしか暗号通信士が乗ってねぇもんな。
「昨晩はお前のハミングがうるさくて眠れなかった」
「そりゃ、悪うござんした。けど、あんたも楽しめただろ」
俺は思わず笑った。俺はエロい言葉を変換して寝るまで遊んでいた。
「フン」
将軍家の坊ちゃんは不機嫌そうな顔をして、部屋を出ていった。
* *
「ヌーイーっ。全然暗号は秘密じゃなかったぞ」
レイターが不満気な顔で突っかかってきた。どうやら坊ちゃんに解読された様だ。
「ははは、音階暗号譜の基本言語は士官学校でも理論を勉強するからね」
「ちっ、つまんねぇの」
「基本言語は暗号にならない。だから鍵音符を使って、符丁の切り替え変換をするんだ」
「鍵音符?」
ここから先は機密に近づく。深入りさせる訳にはいかない、とわかっている。
けれど、この素晴らしい音の世界を、こいつにも見せてやりたくなった。
レイターの才能を見ればわかる。こいつは音階暗号譜の世界を歩く素質を備えている。
「これは『夏の日の雲』の楽譜だ、これを鍵音符に使ってみよう。そうすると、基本の母音と子音が決まる」
レイターが食いついてきた。
僕の心が楽しんでいた。
この鍵音符の符丁は誰も使ったことがない、僕のオリジナル曲だ。レイターと僕の二人だけの秘密の世界を作りあげていく。
「『ヌイ』って弾いてごらん」
僕の名前は単純だが、流石にレイターも苦戦している。
「これかな?」
レイターが楽譜を見ながら鍵盤を弾いた。
「当たり」
「楽譜と照らし合わせねぇと、こりゃ無理だ」
「仕事の時に楽譜が送られるて来ることはないよ。鍵音符も音声データでやり取りするんだ」
「マジ?」
「任務が終わった後に記録の為、再現して残しておく」
「ひぇえ、それが昨日見た楽譜ってことか」
「そういうこと」 (8)へ続く
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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