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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(34)
連邦軍の特命諜報部がジョーカー事件の犯人を逮捕したとパリス警部とマーシーは報告を受けた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版① ② ③ ④
* *
グレゴリー一家の本部。
ダグは占い師のアザミに聞いた。
「ジョーカーに毒物を撒いたテロリストを連邦軍の特命諜報部が逮捕した。これは偶然か?」
「毒物テロリストがうちの賭場の客だったのは偶然。そのテロリストを特命諜報部が追っていたのも偶然。でも、レイターがあの場所にいたのには作意的な匂いが満ちている」
偶然という名の必然か。
「ふむ、レイターをもっと巧妙にこっちの裏社会へ引きずり戻すはずだった俺のプランは、変更を余儀なくされた」
「あの子に警戒させるために、邪魔をいれた者がいるということさ。あんたの意図に気づいた策士が存在する」
「あの天才軍師のお兄様か。随分派手な再会を演出することになった。気に入らんな。だが、まあいい。おかげであいつの実力がよくわかった。どうだアザミ。あいつを十二年、外へ修行に出した甲斐があったと言うもんだろ」
「あの子をこっちへ戻すの?」
「もちろんだ。あいつは『銀河一の操縦士』という子供の頃からの夢も叶えた。S1にも乗って、師匠のカーペンターもあの世で喜んでいるだろう。もう思い残すこともあるまい」
「外堀から埋めていく気かい」
「フフ、まずはあの若い刑事が、働いてくれるだろうさ」
* *
すっかり体調も良くなったレイターは、ティリーさんと共にフェニックス号でソラ系へと帰っていった。
ジョーカー事件は解決したが、重要参考人だったレイターに関する報告書を完成させ提出するように上層部から命じられた。マフィア対策課をはじめ本人から聴取ができなかった各部署と、組織横断的にレイターの情報が共有された。
ダグ・グレゴリーはレイターに『裏社会の帝王』を継がせたがっている。その現場を僕は直接目にした。
レイターが、『クロコダイル』や『シャーク』との対決で見せた、マフィアに関する詳細で膨大な情報量、それを生かした対処法。
大規模暴走族『ジャイアント』とのやり取りからわかった、裏将軍としての統率力。
『ガーラ』や『ピンクタイガー』への対応から見えた、幅広な人脈と判断力と胆力。
証拠がなくて報告書には書けなかったが、第三次裏社会抗争はダグが勢力を拡大するために十二歳のレイターを利用したもので、それは、レイターを跡継ぎにするための布石だったに違いない。
いったんは失ったと思ったレイターをダグは喉から手が出るほど欲しがっている。
後継候補のスペンサーとは比べ物にならない逸材だ。ダグの跡目を継がせたら社会の脅威となる。僕の中の結論は変わっていない。
『レイター・フェニックスを裏社会の帝王に渡してはならない』
パリス警部から思わぬ指摘を受けた。
「マーシー、報告書を読んだぞ。レイターのことをよく分析していると思う。だが、いい出来とは言えんな」
「どうしてですか?」
「読めば読むほど、次の『裏社会の帝王』はレイターしかいないという結論になっていく。マフィア対策課のモーリスはレイターを危険人物に指定しろ、と騒ぎ出したぞ」
「え?」
「レイターは、これまでダグの縄張りに近づかなかったから、あいつが跡継ぎ候補だということは、私、含め限られた人間しか知らなかった。だが、お前の報告書で警察中が知ることになったということだ」
「まさか……」
背中がひやりとした。
僕を見てニヤリと笑ったダグ・グレゴリーの顔が浮かぶ。
彼がなぜ僕を殺さなかったのか。
レイターは言った。
「ダグはあんたに役割を与えたんだよ」と。
それが、これだったというのか。レイターが次の裏社会の帝王候補だと警察内に知らしめること。
* *
ジョーカー事件が解決し、わたしたちはソラ系へ帰途に就いた。レイターはうれしそうにフェニックス号の操縦桿を握った。
「やっぱ、目が見えたほうが操縦は楽だな」
ちょっと火星へデートに出掛けたはずが、思わぬことになった。厄病神がパワーアップしている気がする。今度は裏社会が登場した。
でも、そのおかげで、レイターの価値観の生成過程が見えた。理解できると許容の範囲も変わる。
グレゴリーファミリーの円卓衆だという桃虎さんのことは結局よくわからないままだった。
レイターの反応を見ればわかる。彼女は不特定多数の一人じゃない。一方で、マーシーさんによれば桃虎さんの誘いをレイターは断ったというのだから、浮気はしていない、はず。
落ち着かない。嫌な予感がする。女の直感。
どんな関係だったのだろう。野暮かもしれないけれど、レイターが話せる範囲でいいからやっぱり聞いておきたい。
もうすぐソラ系へ到着する。銀河一の操縦士が操るフェニックス号は本当に速い。
レイターは居間のソファーで眠っていた。
近づいたわたしは異変を感じた。
彼は眉間にしわを寄せて、苦しそうな顔で寝言を口にした。
「やめろぉ」
薬物は抜けたはずなのに、ひどい汗をかいている。これは、あの時と似ている。 最終回へ続く
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