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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(37) 決別の儀式 レースの途中に

銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」①   
第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」① ② (29) (30) (31) (32) (33) (34) (35) (36)

 俺は、誰にも話していないことがある。
 二年前、ルト星で開催された業界の一大イベント『S1プライム』。

 新型船のお披露目をかねたリレー形式のレースだ。俺とエースはお互いスターターとアンカーを務めることになった。
 リレー中盤、うちの第二走者がクロノスを抜き、アンカーの俺はトップでスタート。後ろからエースが追いかける展開となった。

 エースは明らかにおかしかった。
 発進でミスをした。
 俺は今回こそ勝てるんじゃないかと思った。
 俺はずっとエースと戦ってきた。研究に研究を重ねた俺は誰よりもエースの飛ばしがわかる。

 変だ。

 減速しないタッチアンドゴー。
 三次元ポイントでの危険な追い越し。抜かれながら俺は思った。

 これはエースじゃない。
 エースの癖を真似ているが、エースより感覚的でアグレッシブな飛ばし。

 こいつは一体誰だ?

 レースを終え表彰式にあらわれたのは、いつものエースだった。

s110エースとティリーレースクイーン

 優勝賞品が窃盗団に狙われるというハプニングが発生し、大騒ぎのままその年のS1プライムは幕を下ろした。

 俺は、家に帰ってからレースの映像を見直した。
 スタート時の第一走者はエースだ。間違いない。

 だが、アンカーは違う。
 機体は同じだがこれはエースじゃない。替え玉だ。

 こいつはエースより速い。
 そんなことがあるのか。あり得ないだろ。

 エースが乗るプラッタはパワーバンドが二で設定してある。
 それを操縦できる奴がエースのほかにクロノスにいるというのか? 

 あり得ない。
 このことを俺は誰にも話せなかった。

 今、ナセノミラを飛ばしながら俺はわかった。
 こいつだ。二年前、S1プライムでエースの代わりに替え玉で飛んだ奴は。

 攻め方、飛ばしの切れ、間違いない。
 そして、こいつ、レーサーじゃない。戦闘機乗りだ。


 魔法使いケバカーンとの会話を思い出す。
「うちのハールには気をつけてください」
「俺はエースしか見てないぜ。まあ、後ろの奴らは兄弟ウォールが蹴散らしてくれるだろうし」

ケバカーンとオクダ笑い

「ハールを操縦するレイター・フェニックスさんは『銀河一の操縦士』を名乗っています」

「銀河一だと、笑えるな」
 俺は鼻で笑った。
「新人のくせに俺やエースをさしおいて銀河一を名乗るとは、いい度胸だ」と。

 今、俺は笑えない。
 こいつエースより間違いなく速い。銀河一のスピードだ。

ポーズにやり逆

 だが、俺は負けるわけにはいかない。
 俺は今日、何としてもエースに勝たなくちゃいけないのだ。

 この先、エースのいないところで優勝しても、俺はエースに勝てなかった男として記録されるだけだ。

* *


 スチュワートのピットは、興奮に包まれていた。
 オクダを追いかけてハールが小惑星帯に入った。

「レイター、いいぞ! このまま行けばオクダをとらえるぞ」
 オーナーの俺は最高に機嫌がいい。

横顔笑い

 その時だった。

 オクダが減速して幅寄せしてきた。すぐ横に小惑星。
 まずいぞ。接触したらハールが燃える。
 
 レイターが、スピードを落として後ろに下がる。

 アラン・ガランがあせった声を出した。
「オットー、今の角度は?」

アラン・ガラン@2やや口逆

「よ、横G六十五度ぴったりです」

 いったん後ろに下がったレイターが、再度加速しマウグルアに追い越しをかける。

 マウグルアが、またハールに機体を寄せてきた。

「どういうことだ? 同じ値。これは偶然じゃない!」
 計算モニターの前でアラン・ガランとオットーは二人して慌てている。

 俺は言った。
「オクダが寄せてくるのは、織り込み済みだろ」
 ハールはギーラル社の船だ。ボリデン合金のハールが接触したら燃えることをオクダはわかっている。ギリギリまで接近して足止めすることは想定の範囲内だ。

「それだけじゃないんです。これは、まずい」
 様子が変だ。
「どうした?」 
「オクダの攻めが、正確すぎる。横G六十五度ぴったりです」
「横G六十五度?」

「ハールは横G六十五度で飛ぶと、メガマンモスのエンジンが止まってしまうんです」
「何?」     (38)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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