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銀河フェニックス物語<少年編>第十二話 図書館で至福の時間を(3)
本嫌いのレイターが中央閲覧室で熱心に何かを読んでいた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十二話「図書館で至福の時間を」 (1) (2)
<少年編>マガジン
僕に気づいたレイターは、振り向きながらあわてて本を隠そうとした。隠す必要などないのに。彼が読んでいたのは『宇宙航空概論』のサブテキストだった。
「後ろからのぞくな。卑怯者」
ひそめた声でレイターが文句を言う。僕は口に人差し指をあてて制した。
レイターが開いていたページを思い出す。関数がちゃんと理解できないと難しいところだ。確かにレイターにはサブテキストが必要だ。
*
図書館の外は公園になっている。ちょうど子どもたちが自宅へ帰りだす時間だった。歩きながらレイターに話しかけた。
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「君は図書館の使い方をきちんと把握しているんだな」
「あん? だって俺、図書館で育ったようなもんだぜ」
「図書館で?」
「母さんが勤めてたコミュニティーセンターにゃ託児施設があって、母さんが働いてる間、俺、預けられてたんだ。あんまり覚えてねぇんだけど、やんちゃ坊主で施設を追い出されそうになったらしい。そん時に母さんが、困ったら宇宙船の本と動画を見せておいてくださいって、職員に頼んだんだってさ。それから俺は併設された図書館に放置されてたわけよ。司書のばあさんがうるさくて、館内で走るとレース映像を貸し出してくれなかったんだ」
そういうことか。幼い頃に身についた習慣は簡単には抜けない。図書館でおかしなことはしないだろう。
「この利用カードを渡しておく。航空概論のサブテキストやそれ以外の参考書もオンラインで借りられる。絶対に悪用するな」
図書館利用カードをレイターはうれしそうに受け取った。
「あんたいい奴だな。俺が悪用なんてするわけねぇだろが」
「借りたものを複写して売るなよ」
コピーガードはかかっているが、航空ログを改竄する能力があれば複写は簡単だ。
「ん? あんたって化け物じみてるが、心まで読めんのかよ」
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「ちなみに有料動画は借りられない設定になっているから、必要であれば僕に言ってくれ」
S1含めレース映像の館外持ち出しは有料だ。こいつにレース映像を与えたらどういうことになるか。母親の言う通りだ。勉強にも仕事にも影響が出ることは必至だ。
「え、えええっつ!?? 将軍家のカードなら全部見られるはずだろが」
レイターがつかみかかってきた。
身体をさばいてかわす。
「君は将軍家の人間ではない。悪用したらカードは没収だ」
「ケチ野郎が」
レイターが思いっきり石を蹴った。
頭の中に司書が使った「お友だち」という言葉が浮かんだ。
はたから僕らを見たら、じゃれあっている普通の十二歳の少年に見えるのだろうか。
*
自室に戻ると僕は任務の続きをはじめた。
ガダガの政務議事録。記憶を頼りにキーボードで打ち込みをする。注意深く行わなくてはならない。記憶に間違いはなくても入力ミスは起こり得る。
「あんた何やってんの?」
レイターがのぞき込んだ。
「仕事中だ。話しかけないでくれ」
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「ふ~ん、こいつはあんたが申請したコピー禁止の資料だな。頭に覚えた内容を再現するのは悪用じゃねぇの」
嫌味な口調が集中力を途切れさせる。
「違法ではない」 (4)最終回へ続く
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