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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第五話 掃き溜めに姫君(中巻)
・<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン
・<ハイスクール編>マガジン
・<ハイスクール編>第二話 (上)
レイターはどこで見つけてきたのか、ゲームのモニターというバイトを始めた。
羨ましいことに、発売前のゲームを毎日やっているという。
「締め切りがあって大変だ」と言っていたが、楽しそうなバイトだ。机の上には面白そうなゲームソフトが山積まれていた。
「いいなあ、そのバイト。オレにも紹介してくれよ」
「紹介するのはいいけどさ、あんたプログラミングできんの?」
「プログラミング?」
レイターはポケットコンピューターとゲーム専用機をつないだ。
「バグを見つけて直さなきゃいけねぇから、結構大変なんだぜ」
ゲームをスタートさせる。
レイターがゲーム機を操ると、コンピューター側のモニターに意味不明の数字が羅列し始めた。これが、ソフトのプログラムか。
「下手すると、時給三百リル切るぞ」
「・・・」
オレは返事ができなかった。
モニターって、ゲームの感想を書くんじゃないのかよ。
トントン。
ドアをノックする音が聞こえた。
「レイター、入ってもいい?」
少女の声がした。透き通るような声だ。オレは緊張した。
「あいよ」
さっきの少女だ。
近くで見るとますますかわいい。水色の丈の長いワンピースがよく似合っている。
「フローラ、こいつがロッキー」
フローラさんが手を差し出して、にっこりと笑った。
「初めまして、フローラ・トライムスです。いつもお話はうかがってます」
オレはあわてて立ち上がって、その手を握った。
「ロ、ロッキーです。よろしく」
今にも消えてしまいそうな、白くて細くて美しい指だった。
心臓がどきどきしてきた。「いつもお話うかがってます」ってレイターの奴、変なこと言ってないだろうな。
「ちょうど良かった。フローラ、これ見てくれよ」
レイターは、数字が映し出されたモニターをフローラの方へ向けた。
「この段から次の段までに、プラス系統のプログラムミスがあると思うんだけどさぁ、わかるかい?」
フローラは躊躇もしないで床に座り込んだ。
文字通り「掃き溜めに鶴」だ。
お嬢様なのに、この汚い部屋に随分と慣れたもんだ。
そして、フローラはモニターを見た瞬間、きれいに伸びた人差し指で一点をさした。
「ここ、変数が違ってるわ」
「お、ほんとだ。やったぁ。これできょうは時給が五千リルだぜ。一個ずつ解析してたら三時間はかかるところだった」
レイターが喜んでいる。
「す、すごいじゃん」
オレはびっくりした。
将軍家はアーサーだけでなく、妹のこの子も天才なのだ。
フローラは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「このバイト代を、レイターがもらうのは変じゃないのか」
「うるせぇ」
オレは正しい指摘をしたのに、あいつはオレの頭をはたいた。
「いっそフローラに、全部モニターしてもらえばいいんじゃん」
フローラは静かに笑いながら言った。
「それは無理です。わたしはゲームはできないので、レイターがある程度示してくれないと、ミスかどうか判断がつかないんです」
「ふうん」
はっきり言って、オレには全くわからない。
「あんた、ゲームやりに来たんだろ」
そうだった。
格闘ゲームでレイターと戦う。
最新作は面白かった。
俺の好きなキャラクターの動きがよくなってる。
とはいえこいつ、家庭用ゲームも上手い。なんであんな技が繰り出せるんだよ。悔しいが負けてばかりだ。
フローラはレイターの隣で寄り添うように見てる。
何だろう、レイターの奴、いつもと感じが違う。女共に他愛のないバカ話をして喜ばれているあいつと。 下巻へ続く
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