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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(18)
テニス女子部のキャプテンだったリオはティリーを集中的に狙うことにした。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① ② (12)(13)(14)(15)(16)(17)
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* *
リオとアンドレも反対側のベンチに下がった。
水分を補給しながら試合内容を分析する。まるで公式戦だ、とリオは思った。
「ティリーは抑えられるとして、彼はなかなかのもんよ。どう見ても我流だけど一流の感覚を持ってる」
とにかく力強くて速い。プロ並みだ。
「大丈夫さ。彼が打ってくるのは直球だけだ。あのスピードにも慣れてきた」
アンドレが追いつき始めている。手練れのアンドレは技を繰り出して器用にしのいでいる。
「技巧派のあなたと直球の彼、全くタイプが違うわね」
「それがどうかしたのかい?」
「どうしてティリーは彼を選んだのかしらって思って。あなたとティリーはお似合いだったし」
ハイスペックなアンドレは人気があったから、ティリーと付き合うことになって女子部員の間に波紋が広がった。テニスの後に楽し気にしゃべって帰る二人の姿はお似合いで、みんなうらやんでいた。
アンドレがポツリとつぶやいた。
「彼が僕に似ていなくて良かった」
「え?」
真意をたずねようとするリオをさえぎるように、アンドレは肩を叩いた。
「さあ、行こう。あのスピードに何としても食らいついていくさ」
* *
ティリーはレイターにボールを渡しながら声をかけた。
「レイター、しっかりね」
ゲームカウント一対ニで負けているところで、レイターにサーブの順番が回ってきた。わたしたちがこのゲームを取るチャンスだ。
相変わらず変な構え。サーブを打ったことはあるのだろうか。
「金賭かってりゃ、もちっとやる気がでるんだけどな」
と言いながら適当にボールを上に放り投げた。何、それ、トスなの?
そこからのアクションは早かった。思いっきり振り切る。
ボールが歪んで見えた。早すぎる。
ズバーン。
リオが目を丸くしている。
「サービスエース」
レイターはいい加減なようで、やる時はやる。すごい集中力だ。
「ナ、ナイスサーブ」
「ま、いつもより的がでかいしな」
さらりと返ってきた反応にひやりとする。ボディーガードの彼にとって、的とは銃で撃ち抜く一点を指す。スポーツ射撃も銃による狩猟も認められていないアンタレスには存在しない的。
レイターの剛速球サーブが続く。アンドレがかろうじてラケットに当てる。
ポワン、とゆっくりボールが飛んできた。前衛のわたしがリオの足元へボレーで返す。ポイントが取れた。
「さすが、元テニス部じゃん」
レイターが歯を見せて笑った。ここはアンタレスだ。銃に狙われる危険も不安も何もない。
「任せなさいよ」
とハイタッチする。何だか、普通のカップルみたいだ。いやいや、わたしたちは普通のカップルだ。恥ずかしがることはない。
なのに、はしゃぎ過ぎてはいけない。と抑制する自分がいる。アンドレの前だからだろうか。
レイターのサーブは圧倒的だった。ラブゲームに抑え込む。ゲームカウントが並んだ。もうこの後はレイターにサーブは回らない。何とかしのがなくては。
ここへきて、徐々にアンドレがレイターの球を打ち返すようになってきた。
「ふふん。やるじゃねぇか」
「速いだけの球、恐るに足らずだ」
「はんっ、これでどうだ!」
レイターの球の威力が増した。恐ろしい速さだ。アンドレも追いつけない。
「くっ」
アンドレが悔しそうな顔をしている。その表情に胸がぐっと締め付けられた。 (19)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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