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銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(3)
・銀河フェニックス物語 総目次
・裏将軍編のマガジン
・最後の最後は逃げるが勝ち(1)(2)
* *
銀河警察のクリス警部から相談を受けてアーサーは考えた。
レイターは自分が無免許で飛ばしている証拠を警察に掴ませていない。あいつは用心深く抜け目がない。
だが、銀河警察はどんな汚い手でも使う。
父上は今もレイターの後見人になっている。
レイターが逮捕されては将軍家にとって面倒だ。監督不行き届きのそしりは免れない。しかも、『裏将軍』を名乗っていたとなれば尚更だ。
そんなことになる前に、あいつを飛ばし屋から引き離しておかなくては。
レイターの奴は、ただ船を飛ばしたいだけだ。
あいつもわかっている。命より大事にしている仮免許を、警察の交通部が取り消すことができることを。
レイターは馬鹿じゃない。正しい条件を提示すれば乗ってくる。
* *
西の大将は速いな。
レイターはノーザンダがバトル会場のウエスタン小惑星帯を飛ばす映像を何度も何度も見続けていた。
このバトルを制するには速さだけじゃねぇ強さが必要だ。
ノーザンダは速さに加えて老舗の強さを持っている。
チームのウエスタンクロスは裾野が広く層が厚い。頂点に立つために、あいつはそれだけの試練を乗り越えてきたということだ。先代たちがつないできたものを全て手にして、あの位置に立ってる。
ノーザンダは毎日会場のウエスタン帯を飛ばす。
これまでに、何千回と飛ばしていることだろう。操縦桿を右へ切ったら次は左と、何も考えずに操縦できる。習慣の力だ。無意識のうちに歯ブラシに歯磨き粉を付けるのと同じ。
実際に飛べない俺は、それをイメージで補う。
小惑星の一つ一つを何度も検討する。
この岩は右から切り抜ける。ノーザンダが接近してたら左もありだ。距離によってはノズルの傾きを変える。
次の小惑星までの最短ラインはこれだ。だが、その先の旋回を考えると余裕を持たせる必要がある。
気体放出する間欠泉小惑星は特に頭に叩き込む。
空間気流をうまく利用しなけりゃノーザンダには勝てねぇ。
いつもと違う左操縦席。背が伸びたせいで肘の位置にも違和感がある。
気にするな、って考えると気になるんだよな。
ノイズが入り込まないところまで、データとイメージをすり込ませる。
これはチャンスだ。『あの感覚』を得るための。
師匠の『超速』カーペンターがS1レースで見せたように、バトルの最中に『あの感覚』の境地に入るんだ。
銀河一の操縦士ならできて当然だろ。
* *
アレグロは突風教習船にこもるレイターを、じっと見ていた。 あいつがここまでストイックなのは初めてだ。
船を動かしてはセッティングを繰り返し、あとはひたすらバトル会場の映像を見てイメージトレーニングを続けている。
初めて会った時、こいつの整備の技術には驚かされた。『風の設計士団』の老師が跡継ぎにしたがった程だからな。
その腕で延々と微調整している。
ほとんど寝ていない。睡眠障害が再発してるんじゃないかと心配になる。
「食事を持ってきたぞ」
「う~ん、悪りぃ、食欲がねぇんだ」
今度は摂食障害じゃないのか。
「大丈夫か?」
「わかんねぇ。ただ、神経が研ぎ澄まされてくるのがわかる。『あの感覚』に行けそうな気がするんだ」
「あの感覚?」
「うまく説明できねぇんだけどさ、船と俺が一体化するんだよな。自由に船を操れる感覚」
あいつは何かを思い出すように目を閉じた。今でもこいつは自由に船を操っているが、それとは次元の違う話のようだ。
「これまでに、そういう経験があるのか?」
「ああ。二回ある。でも、レース中に感じたことはねぇんだ。どうしたらそこへ辿り着けるかが、よくわかんねぇんだ」
頭で考えてもわからない感覚の世界か。
それをつかむために、レイターは本能を呼び覚まそうとしているようだ。腹を空かした野性の獣が獲物を狙う様に。
食事も睡眠も削って、ひたすらに集中する。まるで苦行だ。
だが、大丈夫だろうか。バトルには体力も必要だ。 (4)へ続く
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