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銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(4)
・銀河フェニックス物語 総目次
・裏将軍編のマガジン
・最後の最後は逃げるが勝ち(1)(2)(3)
*
「アレグロは、また負けた時のことを考えてるわけ。縁起悪いわね」
整備場にやってきた御台が眉をひそめて俺をにらんだ。
「すべての状況を想定して作戦を立てるのが、側近たる俺の仕事だからな」
俺は肩をすくめた。御台に何と言われても、検討しない訳にはいかない。
老舗のウエスタンクロスとの決戦は、東と西の代表が一対一でバトルしていく、三人制の勝ち抜き団体戦。
三将が俺、副将が御台、大将がレイターという布陣に変更はない。
御台には悪いが、彼女の実力ではノーザンダに勝てない。最後は大将戦にもつれ込む。
西の大将ノーザンダと東の裏将軍の一騎打ち。
少し前までのレイターなら心配していなかったが、今はタイミングが悪すぎる。レイターの飛ばしがさえない。直近のバトルのデータから計算すると勝率五割の予測。これまでで一番厳しい状況だ。
負けたらウエスタンクロスに、俺たちギャラクシー・フェニックスの旗を渡す。
不死鳥が描かれたデザインは気に入っているが、どうせ俺たちは新参者だ、旗にそれほど思い入れがあるわけではない。
問題は、相手の要求だ。傘下に入るということは、勝者の指示に従うということ。
裏将軍の正体を明かせと迫られた時に、どう対応するか。
裏将軍をめぐっては、プロのレーサーじゃないか、とかいろいろな憶測が乱れ飛んでいる。
警察も注目している中で、無免許のレイターの身元を明かす訳にはいかない。
レイターは黙々と突風教習船を整備している。
俺は本人に意向をたずねた。
「レイター、もし、その場でヘルメットを取れと言われたらどうする?」
「う~ん、そうだな。そっから、とんずらしちまおうっかな」
御台が腰に手を当てて怒った声を出した。
「レイターが負けるわけないでしょ。それに裏将軍が逃げるなんてありえないわ。かっこ悪い」
レイターがフッと笑いながら御台に返した。
「ヘレン、あんた、逃げるが勝ち、って言葉を覚えておいた方がいいぜ」
「逃げたら負けなのよ」
「負けだろうががなじられようが、俺は逃げる。サツに捕まったら免許がおりなくなっちまうからな」
御台が黙った。
御台とレイターは同い年だが、御台の地元ネル星系は十六歳で免許が取れる。御台は免許を持っているがレイターは仮免、すなわち無免だ。
俺は言った。
「方針は決まったな。万一、そういう事態になったら、レイター、お前は逃げろ。交通部の白パトだってお前を捕まえることはできないだろうからな」
「当たり前だろ」
レイターは不敵に笑った。
*
遠征先のウエスタン帯まで、俺の星系外航行中型船で向かう。
旗と同じギャラクシー・フェニックスの不死鳥のマークがボディに描かれた通称ギャラクシー号。突風教習船やバトル用の小型船は格納庫に積んである。
俺は小遣いでこの船を購入した。ハサム一族の財力というやつだ。
レイターは嬉しそうに操縦席に座っている。中型船の操縦も楽しくて仕方ないらしい。
「あと、二か月だ。そうしたら、もう誰にも文句は言わせねえ」
レイターは首から下げた仮免を取り出して眺めた。
十八歳の誕生日まであと二か月か。俺は聞いた。
「レイター、お前、免許がおりたらその後はどうするんだ?」
「あん? 働くさ。免許さえあれば何だってできる。とりあえずは運送業とかで金貯めて、このギャラクシー号ぐらいの中型船が買いたいんだよな」
御台が突っかかる。
「働くって、ギャラクシー・フェニックスはどうするつもり? 免許が取れたら顔を明かして、プロの飛ばし屋になればいいじゃない」
賞金を賭けて飛ばすプロの飛ばし屋。レイターの腕があればやっていけるだろうが、どうもレイターは乗り気じゃないようだ。
「俺がなりたいのは、飛ばし屋じゃなくて『銀河一の操縦士』なんだよ」
「よくわかんないわ。『銀河一の操縦士』って何なの?」
「銀河一操縦が上手いのさ」
「プロの飛ばし屋は、そんじょそこらのレーサーより上手いわよ」
「う~ん、速いだけじゃねぇんだよな」
答えになっていなかった。おそらく、レイターも答えを探している途中なのだろう。 (5)へ続く
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